
農村の賑わい創出「釜ヶ渕餅つき大会」を取材しました
大盛況「釜ヶ渕餅つき大会」
立山町釜ヶ渕は、富山市から車で約30分の田園に囲まれたのどかな地域です。この地域で、2022年5月に富山県第一号の農村RMO「釜ヶ渕みらい協議会」が発足しました。2024年12月28日、地域の賑わい創出のため「釜ヶ渕餅つき大会」が行われるということで取材してきました。
※農村RMOとは、農地保全活動や農業を核として、地域コミュニティの維持を目的とする組織のこと
少し早めに「釜ノ蔵」を訪れると、協議会の方々がすでに餅つきの準備をしていました。
いつも椅子とテーブルが置かれている交流スペースには、杵(きね)と臼(うす)が準備され、その周りには餅つきを見学できるように椅子が配置されています。
開始時刻は11時。時間が近づくと、入口の方から人が続々と入ってきました。子供を連れた方が沢山おられます。
村井さんが開始を知らせると、御年88歳の桑原米蔵さんが初打ちを行い、餅つき大会がはじりました。使うもち米はもちろん立山町産、杵と臼も地域内で準備できたそうです。
餅をつく度に、どこからともなく「よいしょ」というかけ声が聞こえます。地域の方々が絶え間なく交代しながら、餅つきはリズミカルに進んでいきます。子供たちが杵を持って餅をつく体験も楽しそうに行われていました。
つきあがった餅は、加工スペースでちょうどよい大きさに分けられ、あんこときなこの2種類の餅を作っていきます。希望者にはぜんざいも準備してくれるようでした。
餅は1パック100円。あっという間に餅を買い求める方々で長蛇の列が出来ました。あまりの列に私もお手伝い。私のような地域外の者もスッと入って違和感なくお手伝いできたのは、地域外の人を受け入れる温かい風土があるからかもしれません。
餅つき大会は大盛況で終了しました。餅をつく人も、それを観ている人も、餅を買い求める人も、みんな本当に楽しそうだったのがとても印象的です。
地域の交流施設「コミュニティスペース 釜ノ蔵」
餅つき大会が行われた「コミュニティスペース釜ノ蔵」は、旧JA倉庫を借り受けて整備した地域の拠点施設であり、住民がいつでも立ち寄り交流できるスペースとして運営されています。旧倉庫なので建物自体は無機質なのですが、施設内の什器(じゅうき)は地域の方々から持ち寄られたものを使用しており、とても味わいのある雰囲気です。
2023年9月には釜ノ蔵内に、「釜カフェ やわやわや」がオープン。愛知県出身で立山町の地域おこし協力隊でもある鈴木由香利さんが切盛りするお店で、地域の食材を使って、薬膳の考えを取り入れた食事やお茶などを提供しています。
また入口付近では、協議会や地域の農家さんが育てた野菜などが販売されています。
お盆の時期限定で夜の居酒屋もオープンしており、みらい協議会事務局長の村井さん自身がマスターになってお酒を提供するとのこと。地域の人たちが集まって交流する姿が浮かびます。
また、かつて存在した駄菓子屋の役目を担うため、無人の駄菓子屋も設置しており、まさに地域の人たちが気軽に立ち寄れる場所になっています。
釜ヶ渕の未来をつくる「釜ヶ渕みらい協議会」
「釜ヶ渕みらい協議会」事務局長の村井一仁さんにお話しを伺いました。
「釜ノ蔵」を拠点とする富山県初の農村RMO「釜ヶ渕みらい協議会」は2023年8月11日に本格稼働しました。発足は、町からの打診がきっかけだったそうです。
村井さん自身は生まれも育ちも釜ヶ渕。地域のメインストリートには、かつて商店が数多く立ち並び賑わいがありました。それが今では、商店がすべてなくなってしまったり、耕作を止めた田畑が増えてきたことに気づいてはいたという村井さん。村井さん自身は平日は勤務しており、協議会の活動ができるのは土日のみ。最初は大変そうとは思ったけど、今はやってよかったと思うし、昔のような賑やかな地域を取り戻したいと力強くおっしゃっていました。
協議会では、コミュニティーガーデンや釜ノ蔵内で、大勢が楽しめるイベントを数多く企画しています。村井さん自身、賑わいが創り出されているのを実感されているそう。
また協議会には、釜ヶ渕地域内だけではなく、町外から企業や学校など様々な団体が協力にやってこられます。地元の声だけではなく、外の声がとても貴重だとおっしゃっていました。一部だけで盛り上がるのではなく、地域の回覧板などで、協議会の活動について広く知ってもらえるようにしているそうです。
釜ヶ渕みらい協議会では、遊休農地を無償で借受けた「釜ヶ渕コミュニティーガーデン」で野菜やハーブを育てています。ここで収穫した野菜は、立山町のJAアルプス農産物直売所「味覚の郷」や「釜ノ蔵」内で販売しており、協議会の収益になっています。
一番力を注いでいるのが、富山市婦中町の老舗酒造「吉乃友酒造」とコラボした甘酒「農アル」です。「農アル」はコミュニティガーデンで栽培したサツマイモを皮ごと使用した甘酒です。サツマイモの甘味が感じられ、糀の優しい甘さとうまく調和し、とても飲みやすくて美味しく仕上がっていました。今後はこの甘酒をさらにバージョンアップしていく予定だそうで、どのようになっていくのかとても楽しみです。
現在、補助金などで運営が支えられている「釜ヶ渕みらい協議会」は、いずれは補助金がなくなるため、協議会が自走していかなければいけない時期がくるそうです。そのためにも、色々意見を出しながら収益を得るしくみを整えている真っ最中です。新しくつくるのではなく、今自分たちの周りにあるもの(遊休農地や空家など)を上手く活用していきたいとおっしゃっていました。
立山町へ移住「白雪農園」の坂口創作さん
「釜ヶ渕みらい協議会」の構成員でもある「白雪農園」の坂口さんも立山町への移住者です。富山のどこに住もうか考えた時、ここ立山町で何か面白いことが起こりそうだと直感して決めたそうです。坂口さんは元は会社員。立山町に住んでから、会社員では決して体験できないようなことを日々体験し、毎日わくわくで満ちているそう。
「白雪農園」は自然栽培を主体としながらも、ゲストハウスや自然や地域の人々と関わりを持ちながら様々なことをする「百姓農園」。新たな目標も次々と実現に向かっています。
坂口さんに会うために訪れたのが、2024年3月にオープンした「宿坊立山」。古民家を一部リノベーションした宿泊施設です。この日は坂口さんが自然栽培で育てたもち米で作った丸餅の販売日で「宿坊立山」が販売会場。坂口さん曰く、今日は一年で一番忙しい日とのことでしたが、とてもゆったり楽しそうにされているのが印象的でした。
「宿坊立山」には、坂口さんの餅を買い求める人が次々と訪ねてきます。それも購入だけでは終わらず、どんどん会話が広がってそのうちに横の部屋で座って語らいがはじまるのです。坂口さんの丸餅は老舗和菓子店「寺島清月堂」と共同で作ったそうですが、この「寺島清月堂」さんも知り合いの輪の中から得た情報だそう。
「つながり」が「つながり」を呼び、どんどん大きくなっているんだとおっしゃっていました。富山の餅は四角い餅が主流ですが、福岡県出身の坂口さんが作った餅は丸い餅。こんなところで文化の交流が行われるのも移住者ならではと思いました。そのうち立山町のお餅は丸餅になっているかもしれませんね。
釜ヶ渕から眺める美しい「立山連峰」
立山町からは、天気のよい日には立山連峰が一望できます。より立山に近いので迫力が違います。「釜カフェやわやわや」の鈴木さんも、立山連峰がみえる景色の美しさに感動し、移住を決めたそうですよ。
市街地まで車で約30分の距離で、こんな景色に毎日出会える。生活に不便のないちょうどよい地域なのかもしれません。
緑があふれるのんびりした風景、いつでも身近に感じられる自然はこの地域の宝物だと思います。
周辺施設「グリーンパーク吉峰」
周辺施設として「グリーンパーク吉峰」があります。吉峰温泉は広々とした天然温泉。とても体が温まるよい温泉で、私も大好きです。レストランや休憩所も併設しており、レストランでは地元の食材を使用した食事もできます。
グリーンパーク吉峰内にはキャンプやコテージに宿泊できる「モンベルベースキャンプ」もあります。気軽に楽しめる場所があるというのはとても魅力的だと思います。
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