路面電車で行く富山駅北「越中中島駅」の〝エモい〟酒処【ジモメシ放浪記7】
富山市内のグルメを探す際、富山駅北地区にも注目してみてはいかがだろうか。路面電車を利用してちょっとした旅情を味わいつつ、食べ飲み処を探し求めるのも一興だ。今回は富山駅北の「越中中島(えっちゅうなかじま)駅」を舞台に、「ジモメシ」の飲食店を放浪した。
富山駅の雑踏を抜け、路面電車で越中中島駅へ
富山駅、夕刻の雑踏。
通行禁止を示す近未来的なオレンジ色のネオンサインが点き、岩瀬浜行きの路面電車が入って来る。
学校帰りの生徒らの流れに沿って乗車、電車は静かに、軽やかに動きだす。
仕事帰りの車でひしめく駅北地区を優雅に駆け抜け、奥田中学校駅を後にすると速度が一気に増していく。それはまるで、今回の放浪先、越中中島駅付近での「ジモメシ」にときめくオレの胸の高まりを表しているかのよう。乗車して17分ほどで目的地に到着、早まる気持ちを抑えながら、はじめのジモメシ処へ歩みを進めた。
手作り料理が評判のアットホームな「食堂こころの花」
訪れたのは「食堂こころの花」。2020年に開業し、冷凍食材を一切使わず、季節に応じた新鮮な素材を使った手作り料理が評判のお店だ。今回は富山北地区に住む知人Nにアテンドを依頼しており、味はお墨付き。民家調の店内に靴を脱いで入ると、吹き抜けで天井が高く解放感があり、暖色系の照明が実家に帰ったような温かい雰囲気を醸し出している。きっとここで開かれる飲み会は、心に花が咲くような楽しく和やかな会になるのだろう。そんな想像をしながら知人3人で杯を交わす。
「太田さん、最近真面目な記事ばかりでつまんないねえ。モニカ節がないやん。調子乗ってんの?」
乾杯後の開口一番、この店をアテンドした知人Nがちょっかいをかけてくる。
「なんだと?書いてからモノ言えや!」
「アンタこそ、取材してるのなら人の目を見て話せよ!」
「うるせえなあ、おメエの掛けてるメガネぶんどってマドラーにするぞ!」
と、せっかくの和める雰囲気にそぐわないやり取りをしながら、久しぶりにじゃれあう。そのうちに料理の品々が運ばれてきた。
山菜の昆布締めや野菜系料理に舌鼓
はじめは山菜の昆布締め。富山のソウルフード「昆布」を使った典型的な郷土料理であるが、山菜を使うのは中々お目にかかれない。タケノコ、ワラビ、ゼンマイの三種が締められ、艶っぽい光を放つ姿に腹の虫が鳴る。わさびをつけて食すと、昆布のうま味がねっとりと素材に絡み、じんわりと味が広がっていく。完全に勢いが付き、知人Nが同店でキープしている焼酎ボトルをソーダで割り、全て空にする調子で飲み進めていく。
続いては「ツルムラサキのおひたし」。珍しいメニューだったので注文してみた一品。ツルムラサキは青々しくつややかで、つゆを付けて食べてみる。つるりとした食感が面白く、引っ掛からずにするすると胃に収まっていく。酒をひっかけながらちびちびと食べ進めるには最適な一品だ。
揚げ物で注文したのは「ミョウガのから揚げ」と「トウモロコシのから揚げ」。揚げ物も肉系ではなく野菜系を求めてしまうのは年齢が成す所作なのか。それはさておき、まずはミョウガを一口。揚げたてでアツアツのホクホク。自然な甘味と、嫌みのないミョウガの苦味がにじみ出てきて、新鮮さが感じ取れた。
トウモロコシは居酒屋で夏の定番メニューとして出てくる一品ではあるが、同店のトウモロコシはてんぷら粉などの余計な衣がない素揚げに近い形で、トウモロコシのそり上がった様相が鮮度を示しているかのよう。口にすると雑味がない真のトウモロコシの甘さと、一粒一粒がシャキシャキとした繊維感を覚える。夢中になってかぶりついてしまった。
絶対に間違いないメンチカツでシメ
最後はメンチカツでシメる。香ばしく揚がった茶色の衣にオーロラソースがかけられ、さらに目玉焼きが乗せてある。食べ盛りのわんぱく小僧にはそそられる刺激的なビジュアル。中年になってもその時代の思いだけは変わらず、3人でシェアして口に運ぶ。衣のカリカリ感と中の溢れ出す肉汁に玉ねぎの甘味がたまらない。酸味の効いたオーロラソースが後口をさっぱりとさせ、さらに、さらにと箸を進めさせる。絶対に間違いない一品で、目玉焼きと組み合わせて味変を楽しみ、オレは満足して箸を置いた。
昭和の雰囲気漂う〝エモい〟町中華「特一ラーメン」
予定通り知人Nのキープした焼酎が空になったので、精算を済ませて次の場所に向かう。続いては、道途中にあった昭和感のある黄色の看板が〝エモさ〟を漂わせていた「特一(とくいち)ラーメン」だ。年配の夫婦が営んでおり、昔ながらの町中華が味わえそうだ。
中に入ると、L字型のカウンターと小上がりが2テーブル。ラーメンは麺が売り切れていたが、同店を知る知人Nによると、自家製餃子とチャーハンがおすすめとのことで、その2品を注文した。
瓶ビールを引っ掛けながら盛り上がっていると、餃子が運ばれてきた。口に入れると、餃子餡のしっかりとした歯ごたえと、皮と餡の間にある空間を感じ取れる。この空間が美味しさを引き立てており、作り立ての餃子ならではの感触だと推察した。ビールで一気に流し込みながら食べ進める。
チャーハンの具材は卵とチャーシューのシンプルな一品で、昔よく町中華で見た色合いを見ると、なんだか懐かしく幸せな気分になる。しっとりとした炒め方で、塩コショウメインのご飯を際立たせるような味付けがすこぶる自分好みだ。3人でシェアするとすぐに無くなってしまった。
「このチャーハンめちゃくちゃ美味しいから、もう一皿頼もう!」
思わずおかわりしてしまったのは、味なのか、はたまた、心が揺さぶられたのか。
優しい味わいの中華と、店内のゆったりとした時間が流れる雰囲気に、また一つ郷愁の漂う店と出会えて嬉しくなったのは確かだ。
酔いに任せて終電を逃す体たらく
気分上々になったオレは、瓶ビールを追加しつつ、その後も3人で身にならない話を延々と駄弁り、気が付けば時刻は23:00を過ぎていた。慌てて越中中島駅へ向かうと、富山駅行きの終電は23:00で、乗り遅れがここに確定した。
「太田さん、ちゃべちゃべ(ぺちゃくちゃ)と当てもない話するからこうなるのよ。深酒だしさあ。ちゃんと記事書けるの?」
知人Nに最後まで説教じみたちょっかいをかけられる。
「楽しけりやいいんだよっ!運転代行も捕まらんから富山駅まで歩いて帰る!」
と捨て台詞を残し、オレはとぼとぼと夜の帳に消えていった。吹き出る汗、歩く度にだるくなっていくふくらはぎ。そういったやらかし事も含めて、今回の「ジモメシ」旅もまた、我が記憶に深く刻まれていく。
Column
富山市中心市街地の果て「新世界」を放浪した前回の【ジモメシ放浪記6】はこちらから
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