富山駅前ハシゴ酒・中年世代の地元民が通う〝ウマい店〟とは【ジモメシ放浪記8】

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北陸新幹線の福井県敦賀(つるが)駅延伸によって人流が変化してから、富山駅前の飲食店は県内外客を問わず繫盛している。今回の「ジモメシ放浪記」は、長年地元に生きる中年世代が通う塩梅の良い富山駅前の居酒屋やカフェバー、締めの中華料理店までをハシゴ酒した様子を伝える。

北陸新幹線で人流が変化した富山駅前

富山駅前。
北陸新幹線開業前と後では、雰囲気ががらりと変わったエリアである。
昔は昭和レトロ感を醸し出す「シネマ食堂街」をぶらつき、寿司店で地魚のにぎりをつまみつつ、狭小な空間の中で初対面の人と打ち解け、杯を交わしたものだ。
2015年に北陸新幹線が開業、2024年には同新幹線が福井県敦賀駅まで延伸してから、富山駅前は人流が確実に変化した。「パティオさくら」や「MAROOT(マル―ト)」などの商業施設のオープンに伴って新たな飲食店も増えた。週末はもちろんのこと、平日でも店によっては予約が取りづらいほどにぎわいを見せている。
オレの心のオアシスであったシネマ食堂街は無くなってしまったが、移転して当時からの名物料理を守る店も存在する。
発展を遂げる駅前で、40年以上を富山市で過ごす中年地元民が足しげく通う店はどこなのか。冬のある日に、我々にとって食事が美味しくて勝手の良い、いわゆる〝ウマい〟店をハシゴ酒した話のはじまり、はじまり。

【艶次郎(えんじろう)】時間調整しても訪ねたい人気居酒屋

前途の通り、富山駅前の飲食店は平日でも混みあっており、初めの店も予約が取れたのは20:00台だった。時間調整しても訪ねたい人気店、それが富山駅前の雑居ビル2階にある居酒屋「艷次郎(えんじろう)」である。
玄関にどかん、と置かれた「ひみ寒ぶり」の箱に目が奪われる。こりゃ絶対食べんといかん、と気持ちを引き締めて入店。店内は6名掛けテーブル席2卓にカウンターがある。今回はグループで訪れており、大漁旗が掲げられたテーブル席に腰を落ち着ける。

「おいおい、この店地酒のセレクト凄くない?」
壁に貼られたメニューを見て、日本酒好きの関西出身メンバーが目を輝かせる。

そのままの流れで羽根屋(はねや)の純米吟醸生酒で乾杯。ぐいっと杯を上げると、フルーティーな口当たりが広がり、すっと体内に染み入るように無くなった。
「これは、あかんやつや」
あまりの飲みやすさに、深酒の予感を感じ取った先ほどの関西人が思わずつぶやく。ここからは日本酒祭りが開幕し、勝駒(かちこま)大吟醸や千代鶴(ちよづる)大吟醸、曙などの中々飲めない地酒を次々と注文し始めた。

寒ブリをはじめ垂涎のラインナップの刺身盛り合わせ

地酒で気分を高めたところで、まずは刺し身盛り合わせとご対面。玄関口から自己アピールの激しかった寒ブリをはじめ、バイ貝、マダイ、カツオ、ホタテ貝柱の昆布締めと垂涎のラインナップに心が踊る。分厚く切られた寒ブリにわさびを付けて食す。良質な脂が乗りプリプリした身の濃厚な味わいに目をつむってうん、うん、とうなずき、地酒をぐびり。
「富山の冬は、今、ここに始まったのだ」
空にした杯を傍らに置き、オレはぽつり独りごちた。

バイ貝は身がコリコリ。富山湾で採れたカツオはねっとりもちもちな舌触り。昆布締めは貝柱にうま味がまんべんなく染みて柔らかい。

地元民大好物・期間限定の香箱カニ

続いての香箱カニ(メスのズワイガニ)は、おおよそ11月上旬~12月下旬までの期間限定の地元民大好物な一品。「赤い宝石箱」と称されるコクのある身、プチプチした外子(そとこ=たまご)、身からほじくり出して味わう内子(うちこ=未成熟なたまご)、さらにカニみそ。しゃぶりつくすかのごとく平らげた。

リピート必須・艶次郎名物「マグロのカブト肉のネギマ」

そして艷次郎名物「マグロのカブト肉のネギマ」が到着。売り切れもある逸品で、この味を求めて来店する客も多い。牛肉の串かと見間違うほどのインパクトがある見た目に、食の欲がたぎってくる。鉄串に豪快にかぶりつくと、こってりとした甘辛い味付けのマグロ肉に、シャキシャキとした香ばしい焼きネギが合わさる。そのうちにマグロはトロトロととろけ落ち、胃の彼方に消えていく。この絶妙な焼き加減と味付けは唯一無二の代物だ。
「ウマぁ~い!白米が欲しい~っ!ずっと食べていたい!」
わんぱく盛りのいがぐり坊主に戻ったかのような一言を発するメンバー。絶品料理に感動し、エンジンのかかった一行はさらなる食を追い求めていく。

ほんのりピンクに色づいた鮮度抜群なマダラの白子。妖艶な様子に誘われ自然と手が動く。あと何度自分自身を縛り付けるであろう痛風にまつわる数値も忘れ、ポン酢をつけてたしなむ。

旬魚を今度は焼き物で。氷見ブリのカブト焼は、ほろほろと崩れ落ちる焼き加減。我先にと箸が四方八方から伸びる。

最後にゲンゲ鍋でぷるぷるとした口触りを楽しみ、大満足の一次会を終えた。

【カフェバーSawar´s(サワーズ)】話足りない時に利用・カラオケも

お腹も満たされ、気分上々で次の場所へ向かう。二次会はカラオケ・カフェバーの「Sawar´s(サワーズ)」。この店は時間制で飲み歌い放題が3000円で楽しめる。喧騒から逃れてじっくり話をしたい際によく利用する場所だ。スナック形式の「Lover´s(ラバーズ)」も隣にあり、同じ経営者なので、その時の雰囲気や気分によって店を選べるのも良い点だ。

二度目の乾杯をし、身の上や青春時代の話などに花を咲かせる。そのうちカラオケの時間になった。
「あのさ、今年流行った『こっちのけんと』て歌手。人気曲のプロモーションビデオが昭和のアニメ調で共感してさ。思わず見入ってハマったんだよね。その曲歌っていい?」
と断りを入れ、何事にもチャレンジ精神旺盛なオレは「はい、よろこんで~♪」とのどを響かせる。
「いや、誰?最近の歌手分からんちゃよ!」
周りから冷めた目で見られ、話をしやすい静かな雰囲気の実現に一役買う結果となってしまった。

オレたちのアイドルだった中山美穂をしのび、学生時代に流行った曲を歌ったのが盛り上がりの最高潮。昔ときめいた有名人の訃報を聞く頻度が上がり、年齢を重ねた悲哀を少し感じつつも、時間一杯まで飲み歌い騒ぎ、楽しいひと時を過ごした。

【粋宏閣(すいこうかく)】締めの定番中華料理「ムースーロー」

締めは中華料理の「粋宏閣(すいこうかく)」へ。同店は昔駅前シネマ食堂街に入っていた店で、移転して店内が広くなった。朝4:30(週末は5:30)まで営業しており、夜も深まると大勢の客でひしめきあう。この日、運転代行の待ち時間も長かったことから、待ち合いの意味も含めて入店した。すると、別の席に知り合いの面々が。この店に来ると何割かの確率で知人に遭遇する。逆説的には、それほどまでに地元民一日最後の酒場として定番の場所なのだ。

注文したのは、同店を語る上では外せない名物の「ムースーロー」。いわゆるキクラゲの卵炒めである。油をまとって照りつやの出た黒いキクラゲを卵、ピーマンやタケノコ、豚肉と一緒に取って口に運ぶ。薄味で食べやすく、柔らかでコリコリのキクラゲ、野菜のしっかりとした歯ごたえ、ふわりとした卵とそれぞれの味を噛みしめる。
「やっぱ最後はこの味だな」
誰からともなく声が上がる。それから酎ハイがなみなみに入ったメガジョッキを傾け、酔いが極まっていったのであった。
 

今回のジモメシは、実は中年あるあるの裏テーマによって進められた。
それは、喫煙が可能か否か。
我々中年世代の店決めには、この条件が必ずと言っていいほどついて回る。
ヤンキーからクラブ系文化への変遷の中にいた青春時代。盗んだバイクで走り出し夜の校舎を窓ガラス壊して回る、という現代では共感しづらい歌に憧れた思春期を経て、裏原宿系と呼ばれるブランドの服をこれ見よがしにまとい、ポケベルで連絡を取り合ったあの頃。今では非喫煙者が圧倒的に多いタバコも、若者文化形成の一部であり、大人の階段を上る意味合いも込めて適齢期になると周りが煙を吹かし始めた。近年の健康増進化から辞める同年代も増える一方で、根強い愛煙家も存在しているのだ。

今回は一例だが、富山駅前には魅力的な店がこのほかにもうんとあるので、訪れた際には自分の足で探してみてほしい。

Column

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路面電車を利用して富山駅北地区の「越中中島駅」周辺で痛飲した前回の【ジモメシ放浪記7】はこちら

ジモメシ放浪記7

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