富山市中心市街地の果て「新世界」昭和レトロな飲み屋街をぶらり【ジモメシ放浪記6】

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富山市中心市街地「中央通り商店街」を東に抜けた先に、昭和時代を切り取ったかのような小さな飲み屋街がある。その名は「新世界」。同所周辺のレトロな「ジモメシ」店をぶらつき、飲み歩いた昭和生まれの男の夜をここに記す。

渋さ満点の店を求め中心部の果てを漂う

群青色に空が染まってゆく。
初夏を告げる日没のわずかなひと時の色合いは、なんだか哀調を帯びていて、昔の記憶を淡く呼び起こす。無垢であり、若気の至りであり、井の中の蛙であったあの頃を。
景色を見やりながら、青き日々を感傷的に振り返るうちに、ふと思いつく。
(今日は、昔っぽい渋さ満点の店で飲みたい気分だ)。
子どものころを過ごした昭和の残像を追うように、オレは独り富山市中心部の果てを漂泊し始めた。

80年に渡り地元に愛される焼き鳥店「ひびきやキッチン2・3」

まずは腹ごしらえから。香ばしい匂いに誘われてやって来たのは、富山市中央通り商店街の端にある焼き鳥店「ひびきやキッチン2・3」。店の壁にこびりついた煙の黒く濃い染みは、80年以上に渡り地元民に愛された度合いを表しているかのよう。引き戸を開けると、年季の入った味のある店内の雰囲気に心が休まる。

東京の下町っぽく、焼酎を黒ホッピーで割り、おまかせ串焼き5本をアテにちびちびとおっぱじめる。今日の串焼きは豚タン、鳥皮、つくね、若鳥、ハツ。自家製のタレにくぐらせて焼き上げられた串は、外はカリカリで中はふっくらした味わい。コリコリしたタンとハツ、ぬるりとした鳥皮、ふわふわなつくね、ジューシーな若鳥と、硬軟交えた食感をたしなみ、杯をあおる。

続いては名物メニューの一つ「とりなべ」。白湯(ぱいたん)スープに、細かく刻まれたキャベツとネギ、鳥つくね、鳥肉のぶつ切りを入れたシンプルな一品。火をかけて鍋がぐつぐつ煮えるのを待ち、小皿によそって息を吹きかけ、ハフハフと音を立てて口に入れる。細いキャベツがスープを存分に吸い、口の中に引き連れてくる。野菜と鳥と汁が三位一体となり、口内で絶妙な味わいを生み出す。口当たりあっさりだがコクもあり、何度でも食べられる中毒性のある一品だ。

締めに玉子付きライスを注文、鍋の残りに投入して雑炊にし、とりなべのうま味を米一粒まで余すことなく堪能した。

狭小路地に飲み屋が並ぶ「新世界」

腹を満たしたオレは、本日の目的地である新世界へ歩みを進めた。新世界は、中央通りを東に抜けた先にある2軒の長屋に挟まれた10メートルほどの小さな飲み屋街で、創立は1949(昭和24)年と75年の歴史がある。入口に掲げられた黄色の電飾看板が目印で、筆書きの書体と今にも消えそうな看板の灯りが、歴史深い情緒を漂わせている。当時のままの建物に居酒屋やスナックなど数件が営み、新宿のゴールデン街を彷彿とさせるような昭和の情景に、レトロ好きの魂はきっと揺さぶられるだろう。いわゆる「エモい」というやつだ。

「スナックミント」で一期一会に乾杯

新世界の中間にある「スナックミント」の扉を開ける。店内は長細く、バーカウンターのみの設えで、5人が入店すればほぼ貸切となる。2時間飲み歌い放題のセットを頼み、手書きのお通しメニュー表から「ちくわとバジルのオリーブオイル焼き」を選ぶ。ひと手間加えられた酒の肴に、メイカーズマークのハイボールを合わせ、新世界のムードに浸っていった。

同年代の女性店主と昔話に花を咲かせていると、
「すみません、1人いけますか」。
と、こちらも同年代っぽい男性客が入って来た。話してみると、県外から長期間の仕事で富山に来ており、近くに宿泊しているそうだ。付近をほっついた際にこの新世界を見つけ、レトロな雰囲気が気になりだしたという。
「滞在中に歓楽街の桜木町も何度か行きましたけど、新世界の渋いたたずまいに興味があって。中々入りづらかったけど、こうやって入店して、そしてモニカと打ち解けることができて良かった!」。
「いやいや、こちらこそ。ここは富山に残る昭和ですよ。周りにもそんな匂いを感じる店が何件もあるから、滞在中に探検してみて下さい」
一期一会を祝して杯を重ね合う。

カラオケも入り、ワイワイ騒いでいると、今度は常連と見える女性客が1人入店してきた。どうやら、ここはスナックというよりも社交場だと、オレは自問自答の末結論した。
女性客は手慣れた仕草でカラオケ機器を操作し、好きな歌を声高らかに歌う。小さく狭いこの空間で、他人行儀な態度は野暮というもの。合いの手を入れて盛り上げ、その女性とも身の内を語り、共通の知っている歌を入れてのどを競い、笑い合う。

セットの時間はとうに過ぎ、3時間も居座ってしまった。新たな人との出会いで心が浄化されたオレは延長代を支払いつつ、スッキリとした気分で店を後にした。

締めは「一楽」昔ながらの中華そば

最後の締めは、やはりラーメンだろう。新世界から歩いてすぐの店「一楽」ののれんをくぐる。同店は創業1950(昭和25)年の老舗ラーメン店で、新世界とともに歴史を刻んできたとも言える。店内には有名人のサイン色紙が所狭しと貼られ、人気の高さをうかがわせる。午前2時まで営業しており、深夜帯は多くの人で賑わっている。

注文したのは中華そば。ニンニクを溶かし、天かすをかけてずずずっ、とすする。醤油ベースのスープにストレートの細麺が絡み合い、あっさりとした昔ながらの味わい。加えたニンニクが、味に深みを与えている。つるつるとした麺ののどごしが、箸を運ぶ手を止めさせない。すべからく完食し、青春の残滓(ざんし)を追い求めた放浪を終えた。

このほかにも新世界周辺には思わず立ち止まって様子を見たい店はいくつもあるが、実際に訪れ、足で稼いで見つけた店ほど喜びは増す。それこそが観光の醍醐味ではなかろうか。令和に残る昭和時代の一片。富山市の風俗文化をより深く知れるサブカルチャー的なスポットは、一目見ただけで心奪われ、記憶に残るほどの妖艶な魅力を秘めている。

Column

【ジモメシ放浪記5】-1

【ジモメシ放浪記5】

富山県内最大の歓楽街「桜木町」ではしご酒を楽しんだ前回の【ジモメシ放浪記5】はこちらから

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