江戸前の技が光る!富山市「歩寿司本家」で食す富山湾鮨

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富山市中心部から少し離れた場所にある「歩寿司本家(あゆみずしほんけ)」は、江戸前寿司の技で定評のある老舗店である。歩寿司本家の創り出す「富山湾鮨」を、関西出身の友人とともに味わってきた。

モットーは「お客様のわがままが通る店」

「自分ばっかり。オレにもうまい寿司を食わせろて!」。
前回の寿司レポート記事を読んだ関西出身の友人が、うらめしそうに言う。ならば、と訪ねた先は、富山市中心部から少し離れた同市北新町にある「歩寿司本家」。江戸前寿司の老舗としてにぎわう人気店だ。カウンター席を予約し、店名がどん、と大きく書かれた真っ白なのれんをくぐった。

店主の酒井正貴さんにこだわりを聞くと、お客様のわがままが通る店でありたいという。その話を耳にするやいなや、
「じゃあ、すんませんが、テレビを野球中継に替えてもらえまへんか?」と友人。
折しも、この日はプロ野球阪神タイガースの優勝マジックが掛かった重要な試合。熱烈な虎ファンの彼は、中継を見ながら寿司をつまむのが至福のひと時なのだ。
「そういう“わがまま”じゃないだろっ」。
思わずつっこむも、望み通りチャンネルが切り替わった。
まあいいか。手前に置かれたすし皿を四角いダイヤモンドの球場に見立て、富山湾鮨と中年男子2人組との「一貫入魂」な戦いの火ぶたは今、切って落とされたのであった。

アオリイカ、コハダ、ガンド…江戸前寿司に魅せられる

富山湾鮨は予約すると小鉢のサービスがある。今回は魚の南蛮漬けで、ビールで一杯やりながらさっぱりとした一品を胃に収め、内に秘めていた食欲を徐々に解放させていく。肩ならし、ならぬ胃ならしはOK、さあバッチ来いと最初に出されたのはアオリイカ。

あらかじめ醤油が塗られており、そのままいただく。イカの食感と甘みが口に広がったかと思うと、既に消えて無くなったかのような感覚。遅れてスダチの風味がさわやかに鼻腔を突き抜ける。これはもう走力が抜きん出た、言うならば一番バッターだ。この一貫で江戸前の技にすっかり魅せられた。じっくりと堪能せねば。
「締まっていこう!」。
心の中で円陣を組んだ。

二貫目は江戸前寿司の代名詞コハダ。ほどよい塩梅に締められたネタは、小技の巧みな2番バッターといったところか。

三貫目は県民大好きなガンド。富山県名物の出世魚ブリの一回り小さいものを指し、ちょうどよく乗った脂とシャリの相性が良く、さらりと食べられる。

続いての甘エビは、濃厚でぬめりとした甘みがじっとりと舌に余韻を残す。

富山湾鮨の強打者と対峙していると、濃い酒が欲しくなってくる。友人は氷見の地酒「曙(あけぼの)」を熱燗で注文。
「海のものにはな、海に近いところの酒が合うんや」。
講釈を垂れ、ぐいっと威勢よく杯を乾かし始めた。

緩急つけた握りの順番

五貫目のサワラはモチモチとした食べ応えで、とろける様に柔らかい。

その一方で、六貫目のバイ貝は本来のコリコリした歯ごたえを残しつつ、滑らかさも感じる未体験な逸品。珍しいバイ貝の形状から隠し包丁の技が効いているのだろうか、と、まだまだ知識経験不足なオレは自分勝手に結論する。
この軟鋼交えた口当たりの二品を味わった友人は、出し方の順番にお見事、と膝を打ち、
「阪神で例えるならな、緩急つけたピッチングの上手い大竹耕太郎投手やで」。
赤らめた顔で熱弁を振るい出す。
「へえ。そう。大活躍なんだ」。
最近のプロ野球の知識が薄いオレは、ただうなずくしかなかった。

後半には待ちに待った一貫が

熱戦はいつの間にか後半に突入。七貫目のヒラメは塩で食し、みっちりとした身の締まりを噛みしめる。

八貫目は解禁されたばかりの紅ズワイガニ。
「待ってました!これを食べるために訪問を9月にしたのよ!」。
心が踊ったオレは、思わず友人に語り掛ける。
シャリの上に鎮座する紅白入り混じったその様相は、見ているだけなのにカニの味で脳内が占められていくようだ。口にほおばると、五臓六腑に染みわたるかのような豊かで芳醇の味わいに心を奪われる。自然と目を閉じ、口に全集中して紅ズワイの香味を逃すまいと感じ取っていく。食べ終わっても身体に残る独特の香り。食の欲がさらにたぎってきた。もう一度味わいたい。これはおかわり確定な案件だ。

九貫目は言わずと知れた日本海の高級魚ノドグロ。品の良い上質な脂に魅了される。

十貫目の最後は名物シロエビ。海苔とおぼろ昆布で巻かれた2トーンカラーの見た目にも面白い品をしっかりと腹に収め、ひとまず試合終了。

「延長戦」に突入 一期一会な旬のネタに舌鼓

テレビの野球中継は、阪神期待の若手佐藤輝明選手の満塁ホームランで大勢を決したようで、さらに上機嫌となった友人は、「ほな、こちらは寿司の延長戦といきまひょか」と要求。
「望むところよ。もう欲望のタガは外れとる」と応じ、本日のメニューを見て追加注文をし始める。

光り物のイワシはキラキラとした銀色の輝きがまぶしく、鮮度も抜群。今日この瞬間に出会えてありがとう。一期一会に感謝の気持ちで胸がいっぱいだ。

おかわりの紅ズワイガニはカニ味噌を添えて。先ほどとは異なる味に、握りの奥深さ、深淵をのぞかせていただいた。

アナゴはふんわりとした舌ざわりに秘伝の甘辛いツメが合わさり、ずしりと胃に響き渡る。寿司界の重鎮、ここに現れる、だ。

本当の最後、甘エビのすり身と山芋が入った厚焼玉子。その細かな技術に「いい仕事してますねえ」とつぶやいて食べ終え、歩寿司本家のめくるめく時間は幕を閉じた。

「やっぱ富山の寿司はうんまいわ!酒も最高!一人では中々行かれへんけど、来れてよかったで!」。幸福なひと時に満足した友人。
「おいおい、まだ終わってないでしょ。二軒目どこ行くのよ」とオレ。
勢いそのままに、食い気から飲み気へとスイッチが切り替わった二人は、いつものごとく夜の帳に消えていったのであった。
 

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