高岡駅前居酒屋めぐり・レトロ感漂う狭小路地でしか得られない栄養素がある【ジモメシ放浪記9】

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富山県第二の都市・高岡市。あいの風とやま鉄道・JR西日本高岡駅前には、地元民行きつけの飲食店が多々あり、レトロ感の漂う細く狭い路地を進んでいくごとに中年世代の感情は揺さぶられる。今回のジモメシ放浪記は、高岡駅前のふらりと入った居酒屋や定番の店、長年営むスナックをめぐった様子を伝える。

飲兵衛特有の設え「0(ゼロ)次会」前乗りして酒処をさまよい歩く

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今回のジモメシ放浪地を高岡に定めて本命店への取材許可も無事に取り、参加者に連絡するとそのうちの一人が、
「ところで、0(ゼロ)次会はするの?」
とノリノリな様子で聞いてきた。
カウントの定義は1からではないのか、ゼロから始まる居酒屋めぐりという世界観。要するに、一次会前に前乗りし、どこかで一杯引っ掛ける場を設える造語である。発言の主は飲む機会を一分一秒も逃さない趣向があり、たいていの飲み会の前には、会場に前乗りしているか、または別の場所で一杯おっぱじめている様子をグループチャットに投稿する酒席の兵(つわもの)だ。
「高岡で?」
「そうそう!一時間くらいあれば良いから、電車はこの時間のものに乗ろうかな?」
(…まあ、飲兵衛特有の『0次会』なる習慣を書くのも面白いか)
「了解っす。調整します」
とオレは応じ、富山駅から夕刻17時過ぎのあいの風とやま鉄道に乗り込み、高岡駅へと向かった。

電車は約20分で高岡駅に到着。北陸新幹線開業に伴って近代的な施設に一新された高岡駅界隈をぶらぶらと歩く。末広町の路地に入ると、先ほどとは打って変わった昭和の風景が目の前に広がる。細く狭い路地に、壁のシミやひび割れといった年季のある長屋などの建物が身を寄せ合うように建ち並ぶ様子は、曇天の空模様に相まって渋くノスタルジーな雰囲気を醸し出す。エモさ満点の情景にたぎり出したオレたちは、なんだか良さげな佇まいという曖昧な理由で、「居酒屋来多郎(きたろう)」を0次会の場所に選び、アポイント無しでふらりとのれんをくぐった。

【居酒屋来多郎】カレイの煮付けや黒電話に青春時代を思い返す

店内は長細く、カウンターと奥に小上がりが4卓のいわゆる「ウナギの寝床」の作り。入口に置かれた黒電話を見た瞬間、オレは不意に心を奪われた。
スマートフォンの1人1台持ちが当たり前のようになった現代では考えられないが、高校時代までの連絡手段は自宅にあった黒電話1回線のみ。思春期の異性との連絡に使う際には、お互いに身内の「取り次ぎ」が往々にして発生、緊張と恥辱感が入り混じった感情に苛まれながらも、声を聞きたい一心でダイヤルを回したものだ。とはいえ、二人だけの秘密の会話を半ば公開する形となり、回線も独占してしまうことから、長電話はためらわれた。
恋に恋焦がれ恋に泣く、そんなほろ苦く甘酸っぱい青春の思い出が、黒電話を見ただけでぶわわっ、と、頭の中によみがえる。

申し分ない店の趣にオレは心揺り動かされ、早速取材許可を取り付けて小上がりに腰を落ち着ける。錫(すず)の高岡銅器に盛られたイカの煮付けをアテに、キンキンに冷えた生ビールで喉を潤す。

酒で徐々に口も滑らかになってきたところで、お店オススメの1品「カレイの煮付け」が運ばれてきた。箸でつまむとほろほろと崩れる抜群の煮込み具合で、ショウガが魚の臭みを消して食べやすい。
「昔よく家で食べたような、優しい味だね」
と話すうちに、郷愁を感じたのかオレの脳内には中学校の合唱コンクールで歌ったチェコの名曲「モルダウ」が流れ出し、哀調の音色を身にまといながら食べ終えた。

続いての「あまい玉子焼き」は、ほっこりとした味わいで心が温まる。同時に、玉子焼きの定番の味付けは甘いのか塩っぱいのかの不毛な議論が交わされ、一次会までやんやと盛り上がった。

【たかまさ】地元民御用達・魚が美味い人気店

エンジンが温まったところで、本命の「居酒屋たかまさ」へ。「たかまさ」は地元民行きつけの魚料理が美味しい人気店であり、15時から営業しているのも嬉しい。店内の1階はカウンター席とテーブル席、2階には40名まで入れるテーブル席がある。改めて乾杯の杯を交わし、高岡の夜を楽しむ準備を万端にする。

まずは刺し身の盛り合わせが登場。ブリをはじめ、サス(カジキマグロ)、タラの子付け、イカ、イワシ、バイ貝と富山湾の誇る海の幸が勢揃いだ。
ブリも良いが、サスも良い。昆布締めのネタとして有名なサスは、刺身としても富山県民に親しまれている。ブリに比べてあっさりとした味わいで、身に入った白いサシとオレンジとの鮮やかな色合いが、食欲を増幅させる。ワサビを付けて食すと、待ち望んだいつもの味が口の中に広がり、心が満たされていく。

続いてはホタルイカの釜揚げ。プリプリな身を口の中で噛むと、じゅわっと溢れる濃厚なワタの風味。春の到来を存分に感じ取る。

ガメエビのから揚げは、外はサクサクで中の海老味噌がぬっとりと濃い。酒のつまみとして大役を果たす品で、から揚げは白エビだけではない、と認識をまた新たにする。

勢いがついてきたので、ここで地元高岡の酒・勝駒(かちこま)を大吟醸の冷酒で一献。身体に染み入るようにすいっと消えていく。

【たかまさ】名物すり身揚げとおにぎりで満たされる

勝駒に合わせるのは、たかまさ名物のすり身揚げ。まるで綿菓子のようなふわふわとした食感に、熱々かつジューシーな練り物の中身が口の中を楽しませる。食べ終えた後にほんのりと感じる甘さも良い。ここに来たら必ず注文する一品だ。
「魚料理ばかり食べてないけ?肉肉しい、ならぬ魚魚しいチョイスだよな」
と思わずつぶやく。

追加料理は魚以外を選択。長芋の短冊で一呼吸置き、店独特のコクのある出汁が染みたおでんに舌鼓を打つ。さらに、その名の通りのウィンナーベーコンは、塩コショウのシンプルな味付け。だが、それがいい。クセになり、グラスを空ける速度が増す。

最後におにぎりとみそ汁で締める。つやつやな白米をふんわりと握った鮭入りのおにぎりは、「たかまさ」もう一つの名物だ。毎年射水市(いみずし)の音楽フェスに来る3人組のロックバンドみたいに、日本の米は世界一、いや、富山の米は世界一だと、激しい音に合わせ腕を振り上げながら訴えたい。そんな心持ちで口いっぱいにほおばり、すり身入りのみそ汁をすする。満腹感と充実感を得て店を後にした。

【酒処烏丸】30年以上の長きに渡り営むスナック

二次会は末広町で30年以上スナックを営む「酒処烏丸(からすま)」へ。靴を脱いで入る方式で、店内はカウンターと小上がりがある。店名は、高岡駅にサンダーバードなどの関西発特急列車が停車していた時代に、関西圏のお客に馴染みがあって入りやすい名前にしようと、京都市烏丸地区の名前を取って付けたそうだ。正月三が日以外は基本的に営業しており、パワフルで愛嬌を振りまく女性店主のママが切り盛りしている。

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焼酎のソーダ割りで二次会を開始した。ふと横を見やると、カウンターの奥で一杯引っ掛けている男性客が。年間50回は店に通っている常連だという。その常連に店の魅力を尋ねると、
「ママのはっきりとした性格が好きで、会話も面白い。ここに来ると元気をもらえますね。ほとんど店を休まずに頑張っているから、応援したくなります」
とほがらかに話し、グラスを傾けた。

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高岡の文化習慣を感じるには最適な場所だな、と思いながらいると、ジモメシのメンバー内でいつものカラオケ大会が始まり、店内には20年以上前に流行した歌が響き渡る。高岡の夜はクライマックスを迎え、ママの合いの手に乗せられたオレは、春なので尾崎豊の「卒業」を選曲、ちょうど某青年経済団体を卒業したメンバーがいたので、青年経済団体あるあるを即興で替え歌にして絶唱。ある程度の笑いを取り、満足してマイクを置いた。

次回は泊まりでじっくり飲みたい高岡界隈

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時計を見やると22時を回っていた。そろそろ電車を気にしないと乗り遅れてしまう。過去のジモメシでやらかした越中中島駅エピソードの二の舞(ジモメシ放浪記7を参照)にならぬよう、会計を済ませて高岡駅へ急いだ。
「今度は高岡で泊まってじっくりと飲みたいね。桐木町界隈とかでさ」
「いいねえ。締めの麺類も食べてないから、次回のお楽しみに取っておこう」
などとワイワイ会話しながら軽快に歩く。高岡駅前でしか得られないノスタルジー溢れる栄養素を吸収し、みなぎった中年世代の夜は更けていったのであった。

Column

-1

富山駅前の中年世代にとって塩梅の良い、いわゆる”ウマい”店をハシゴ酒した前回のジモメシ放浪記はこちらから

ジモメシ放浪記8

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