立山山麓スキー場と自家源泉のペンション「ホワイトベル」でスキーに温泉、料理を満喫【ジモメシ放浪記4】
冬のレジャーの王道、スキーとスノーボード。積雪地帯の富山県には、初心者から上級者まで楽しめるスキー場が多数ある。そのうちの一つ、富山市の立山山麓スキー場でウィンタースポーツを満喫し、天然温泉のあるペンションでお湯と食を堪能した中年男性のある幸せな一日を詳報する。
子どものころ、冬遊びと言えばスキーだった
昭和から平成初期にかけて、冬遊びはスキー一択だったと言っても過言ではない。子どものころ、冬になるとお年玉をはたいてスキー板やウェアなどを新調し、友達や家族らとともに朝早く起きてゲレンデへ赴き、圧雪されて間もない雪上を滑り降りるのがこの上ない楽しみだった。
時が経ち、生活や趣味の変化から中々足が向かなくなり、令和に生きる中年の冬の余暇時間は、もっぱら友人との飲み会になっていた。その不摂生がたたって痛風を発症したのだから、ざまあないのだが。
そんなある飲み会の時、次の記事は何を書こうかとハイボールを片手に周りに相談、というかくだを巻いていたところ、
「久しぶりにスキーしない?」
と、友人の1人が唐突に提案した。
…スキーかあ。最後に滑ったのはいつだっけ。前職の新聞記者時代に行って以来かなあ(下記リンクを参照)。そうなると20年ぶりか。昔取った杵柄(きねづか)で今はライターをしているから、同じく何とかなるだろう。
「いいね!ついでに近くの温泉宿に泊まって飲み会もしよう!」
酒宴を上乗せしたプランを思いついたオレは、さっそく「ジモメシ」メンバーを集め、20年ぶりとなる雪原の滑降に思い馳せながら、富山市の立山山麓スキー場に向けて車を走らせた。
雷鳥エリア(旧らいちょうバレー)で20年ぶりの滑走
立山山麓スキー場は、極楽エリア(旧極楽坂スキー場)と雷鳥エリア(旧らいちょうバレースキー場)の2つのゲレンデがあり、今回は雷鳥エリアに向かった。到着すると、親子連れや若いカップル、学生グループなどでにぎわっているのが目に入る。積雪はばっちり、天気はくもりのち晴れの申し分ない状態だ。スキーもウェアも持たず、この身一つで来たので、「食堂ふじ」で一式を借りる。スキーかボードか迷ったが、より経験値のあるスキーを選んだ。
雪上でのスキー板を着けた歩き方などをぎこちなく確認しながら、恐る恐るペアリフトに乗る。リフトに上手く乗れずに停止させてしまう、降車時に体勢を崩して周りを巻き込んで転ぶ、といったスキー場でやりがちな失敗も回避し、自信がついてきた。
いや、でも、しかし。年寄りの冷や水、ならぬ中年のぬるま湯。骨折やじん帯等の断裂が怖いので、1本目はスキーをハの字型にする滑走法のボーゲンでゆっくりと滑り始める。
徐々に加速するにつれて爽快感が全身を突き抜け、すぐに気分上昇。板を揃えるパラレルターンに変え、一気に滑り降りた。
ビュー、ビューと耳をつんざく風の響き。
ズシャッ、ズシャッとシュプールを描く音。
目の前に矢継ぎ早に飛び込んでくる冬景色の数々。
「ヤバい!チョー気持ちいい!めちゃくちゃ楽しい!」
スキーの醍醐味を思い出し、オレは1人叫びながら20年ぶりの滑走を満喫した。
下りるとすぐに2本目へ。気持ちは若いが、体はおじさん。息が切れ、汗も吹きだす。スキーブーツの締め付けとターンの加重で足が痛い。しかし、そんなマイナス要素よりも滑走時の快感がはるかに上回る。ブランクを感じないまま5本滑って昼食休憩に入った。
"レジャーメシ"のカツカレーでエネルギー満タン
昼食はスキー一式をレンタルした「食堂ふじ」へ。この店では、富山市の人気カレー店「かれえてい」のメニューが味わえる。迷わずカツカレーのチーズトッピングという自分の定番を注文、額から落ちる汗と鼻水を拭いながら、大口を開けて熱々のカレーをがっつく。カレールーとチーズの濃厚な口当たりが食欲をさらに刺激し、後からピリリと来るスパイスに冷えた身体が温まっていく。
いつも思う。なぜレジャー中の食事、名付けて“レジャーメシ”はいつにも増して美味しいのだろう。運動の疲労回復と充実感をもたらすからなのか、はたまた非日常的な食事環境が特別感を演出するのか、と思いながらぺろりと平らげる。午後に向けての燃料は満タン。晴れ間がのぞき出し、時間がもったいないので休憩もそこそこに、オレはリフト乗り場へと急いだ。
絶景かな 中腹の彼方に見える富山湾と富山平野
午後からの滑走はリフトを乗り継いで中腹へ。頂上まで攻めたいところだが、てっぺんはコブだらけの急斜面モーグルコースで、小学生の時に半泣きになりながら滑る、というよりも転げ落ちて来たトラウマがあるため、今回は断念した。
日の射した中腹から彼方に富山湾と富山平野が見え、スキー場ならではの絶景に気分も晴れやかになる。北海道のニセコ等の有名スキー場は今、インバウンド観光客で大人気となり一杯のラーメンが3000円と物価高騰していると何かのニュースで見たが、富山県にも外国人を充分に魅了できるスキー場はあるのになあ、と旅行会社の頭で考えつつ、眼下のパノラマを改めて見渡した。
中腹は下よりも角度があるが、この山を攻略したいという冒険心で滑り出す。へっぴり腰だったが、転ばずに下まで滑降できて自信が深まり、「雀百まで踊り忘れず」のことわざの意を体現できた。
リフト終了時間の夕方ぎりぎりまで楽しみ、オレは心地よい疲労感と節々の筋肉痛を覚えながらも、青春時代のときめき、昂り、輝きを取り戻し、心身ともにリフレッシュ。充実した心持ちで雷鳥エリアを後にしたのであった。
口コミ評価の高い創業40年のペンション
ウィンタースポーツを満喫した後には、夜のお楽しみが待っている。今回の宿泊は極楽坂エリアにあるペンション「ホワイトベル」だ。スキーの本場であるスイス風の外観が特徴的な同ペンションは、1984(昭和59)年にオーナーの石田正己さんが開業して40年を迎える。
当時は大ヒット映画「私をスキーに連れてって」や、ウィンタースポーツ用品店のCMがバンバン流れるスキーブームの真っ只中。連日スキー客でにぎわっていたが、スキー人口は1990年代前半を最盛期に減少していく。営業を続けるため、冬場以外にも客を増やそうと2004(平成16)年に立山山麓温泉を採掘し、露天風呂で提供し始めた。
その効果で現在は従来のスキー客に加え、春から秋にかけての立山黒部アルペンルート観光の人も宿泊するようになった。天然温泉と食事の口コミ評価も軒並み高いお宿である(楽天トラベルでは4.79。Googleでは4.4)。
チェックイン後、滑らずに宴会だけを目当てに来た他のジモメシメンバーと談話室で合流する。
「なんで滑らんと酒飲みにだけ来とるんよ。すげえ楽しいがんに!」
「うっせえうっせえうっせえわ!文句言う前に自分の垂れた鼻水拭いて出直して来いっ!」
などといつも通りじゃれあい、プシュッ、と缶酎ハイを開けて乾杯。疲れた身体に染みわたるアルコールは、酔いの回りを早くする。談話室でパチパチと音を立てて燃える暖炉の温かさに包まれ、少しまどろみながら談笑した後、お風呂場へ向かった。
ぬめりのあるアルカリ泉にじっくり漬かる
天然温泉はアルカリ泉で、宿泊客からは「肌がつるつるになった」と評判の美肌の湯。ヒノキの露天風呂の奥には、真っ白な雪が積もり重なり、情緒ある雰囲気を醸し出している。
待ちきれない、と、ざぶり漬かって老体に鞭を打った冷え冷えの身体をほぐす。湯を手に取ると、独特のぬめりがあり、全身がまとわれていくかのようだ。バシャバシャと手で顔を洗い、一息ついてじっくりとお湯を身体に染み込ませ、冬の景色を愛でる。身体はぽかぽか、気分はアゲアゲ、心も身体もすっきりさっぱりとなって風呂場を後にした。
お待ちかねの夕食
風呂上がりの後は待ちに待った夕食へ。夕食は地産食材を使った和洋折衷の料理が並ぶ。ビールで乾杯し、さっそくサラダからいただく。新鮮な野菜のシャキシャキ感と自然な甘みがたまらない。
刺身はサスの昆布締めとイカ、甘エビで、酒が進む加速装置と化していく。
中央に陣取るのは、地域特産のモロヘイヤを練りこんだ冷そば。茶そばのような独特の香味が面白く、つるりとしたのどこしも抜群だ。
洋メニューのクラムチャウダーは、じっくり煮込まれた海鮮のうま味が出て温かく、冬のムードが高まり、思わずほころんでしまう。
カレイのホイル蒸しはトマトが入った洋風の味付けで、甘酸っぱく濃厚で酒との相性も良い。
黒部名水ポークの陶板焼きも、しっかりとした豚肉の食べ応えと脂の甘味を感じながら食べ進める。
白エビのから揚げと山菜の天ぷらは、揚げたてをいただく。サクサクの口当たりと甘みが特徴の白エビはもちろんのこと、コゴミやウドといった山宿ならではの山菜はみずみずしく、コリコリシャクシャクした食感を楽しむ。
炊き立てほくほくの山菜釜めしとデザートの自家製キャラメルケーキも完食し、大満足の夕食を終えた。
談話室にはカラオケも
夕食後は談話室で二次会を開始。カラオケが利用でき、盛り上がりは最高潮に。完全防音が施された談話室は、他の宿泊客に気兼ねなく歌える。年齢の近い我らジモメシメンバーの選曲は、自動的に青春時代に流行した曲縛りになっていく。
「知っとる歌手いっぱいおらんなったから、追悼する歌を歌おうぜ。はい、まずはKANの『愛は勝つ』からね」
「なら私、八代亜紀歌うちゃ」
「じゃあ、オレはチバユウスケ」
「え?誰それ、知らんけど」
「何言うとるんよ!日本を代表するロックンローラーだろがいっ!」
またもやじゃれあいながらも、そこから6時間ぶっ続けで歌声が響き渡る。Z世代もびっくりの立ち回りをし、ゲレンデが溶けるほど熱唱したミドル世代の夜は更けていった。
朝食で心整える
翌朝。部屋のドアを叩く音で目覚める。どうやらカラオケ中に寝落ちして、無意識に部屋へ移動し、そのまま倒れたらしい。朝食の時間はとうに過ぎている。寝ぼけ眼で寝ぐせをつけたまま会場へ。
朝食はセットメニュー。まずは二日酔いを覚まそうと、ワタリガニの入った味噌汁をずずっ、とすする。五臓六腑(ごぞうろっぷ)に染みわたる風味に、日本に生まれて良かったと心から思う。
高級魚ノドグロの干物が朝から登場して、とても嬉しい。上質な脂の乗った一品をおかずにご飯をおかわりし、デザートとコーヒーで心を整えて、夢見心地からの目覚めを迎えた。
雄山神社前立社壇に寄り参拝
チェックアウト後、帰り道にある雄山神社前立社壇(おやまじんじゃまえだてしゃだん)で、遅ればせながらの初詣。参拝後に引いたおみくじは大吉。新年早々の大地震で心が落ち着かない日々であったが、これからは良い出来事があればいいな、と期待して帰路についたのであった。
青春の輝きを取り戻すかのような今回の旅は、良さを残しつつも時代に合わせて進化・深化する立山山麓スキー場周辺の魅力を再発見でき、幸せを感じた。ウィンタースポーツと温泉の最強コンビ。富山市内から車で一時間弱でこの両方を楽しめるのは、実に素晴らしい。