秘伝のタレで食らう伝承の豚焼肉!小矢部市の名店「田原」【ジモメシ放浪記3】

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小矢部市の「焼肉田原(やきにくたわら)」は、半世紀にわたり地元民に愛されてきた老舗の焼肉店だ。諸事情により一旦閉店したものの、有志が店を受け継いで2022年に復活、以来伝承の味を守っている。新しくなった名店を訪ね、秘伝のタレで豚焼肉を堪能してきた。

有志が受け継ぎ、「焼肉田原」2022年に再オープン

「焼肉田原」は1970(昭和40)年代から50年以上に渡り営業し、多くの人に親しまれた「ジモメシ」店である。 同店を知るきっかけは、数年前に知人のSNS投稿を見てから。昭和時代を切り取ったかのような味のある佇まいで、色鮮やかな肉の写真と、それに寄せられる「安定した肉の美味しさ!」、「タレがうまいわあー」などのコメントにそそられた。食事の様子を幾度も投稿されるにつれ、いつか行きたいと願望が募っていったが、2019年に店周辺の道路拡幅工事と店主の高齢化などによって閉店。結局訪ねずじまいだった。
月日は過ぎて2022年、地元新聞で有志が田原を受け継いだとの記事を見つけた。秘伝のしょうゆタレも継承しているという。ならば行ってみようと考え、肉および酒好きの知人を誘い、わくわくした気分であいの風とやま鉄道に乗り、小矢部市へ向かった。

石動(いするぎ)駅から10分ほど歩き、小矢部市役所の近くにライトアップされた田原の看板を発見した。新しくなった店内は、カウンター10席と6人席の小上がりが3卓。先代から味を受け継いだ店主の中田秀樹さんに小上がりを案内される。

豚肉推しのメニュー

さて、なにを頼もうかな、と壁に掲げられたメニューを見てびっくり。豚肉の部位とホルモンでほとんどを占めている。「豚レバー」、「豚タン」など耳馴染みのない名称が並び、さらに興味と食欲がたぎってくる。とりあえず生ビールで喉を潤し、どこかの貴族よろしくメニューを左から順に注文していく。

独特のとろみがかった手作りタレ

注文が終わり、次はタレを準備せねばと、さくらんぼ模様が描かれた昭和感あふれるソース差しを手に取り、小皿に注ぐ。と、ここでもびっくり。伝統のタレはドロドロとした粘性があり、まるでソース差しと小皿を結ぶ一本のひものように注ぎ落ちる。どのような材料を使っているのか。肉との相性は良いのだろうか。とろみがかったタレをしばし眺め想像をふくらませているうちに、お待たせの品々が運ばれてきた。

珍しい部位と分厚い豚バラを実食

まずはお店オススメの豚バラをはじめ、豚ハツ、豚ホホ、豚タンの4種から。ガスコンロの上で鮮やかな赤身が音を立て、徐々に茶色に染まっていく。それに伴い発生する煙、飛び散る油。目に染みるし、肌に当たって痛い。だが、それがいい。それが子どものころから慣れ親しんだ焼肉を食す雰囲気だ。苦難を乗り越えて肉を“育てた”という経緯が、食べる瞬間に最高のスパイスへ変わるのだ。

豚ホホは、赤身の肉肉しさとしっかりとした噛み応えで、肉汁が口内に広がっていく。
豚ハツもさらりとしており、すいすいと腹に収まる。
豚タンは、外はコリコリ、中はほたほたとした相反する食感が面白い。
また、一緒に付いてくるキャベツが、寿司のガリのように次の肉を食べる口直しとなり、いい仕事をしている。まっさらな気持ちで次の品と向き合える。

そして豚バラ。分厚く切ってあり、脂の甘みとカリカリに焼き上げたサクサクの食べ応えが心地よく、一切れ、さらに一切れと箸が止まらない。バラ、ビール、バラ、ビールと交互に食べ進めてぺろりと完食。これはおかわりかつシメの白米とのコラボ決定だ。

これらの豚焼肉の美味しさを引き出しているのが、受け継がれる手作りのタレ。しょうゆベースで、一般的な焼肉店に出てくるような濃い目の風味ではなく、くどさもない。なんとも形容しがたい味わいがある。独特のとろみが肉を包み込み、素材のうま味を際立たせている。演劇で例えると主役を照らす照明係、コンサートで言うとバックコーラス、といったところか。タレは何度もつけているうちにサラサラになり、さらに継ぎ足して食べ進めていった。

常連の小矢部市観光課員からうんちくを教わる

「ここの店はね、豚バラと豚シロ、そして日本酒だよ!」
と、ワイワイと会食しているオレたちに、取材を知った常連が話しかけてきた。名を訪ねると、小矢部市観光課の荒井宏之さんで、既にほろ酔い状態。田原は市役所の道を挟んですぐにあるので、仕事が終わるやいなや駆け込んできたのであろうか。忙しく動き回る店主の代わりに、荒井さんに田原のうんちくを教わった。

秘伝のタレのレシピを知る人は、小矢部市でごくわずかなこと。肉は冷凍を一切使っておらず、新鮮なものを提供しているということ。ビールは生中よりも生大の方が量も金額もお得で、これは酒屋も兼業する中田店主のプライドだということ。
「やっぱり、みんなが好きなのはどこにもないタレだよ。独特のとろみが最高。焼肉の本場、大阪鶴橋にもないここだけの味だよ!楽しんでいってね!」
荒井さんの熱い語り口に共感し、思わず涙がにじむ。いや、単に煙が目に入っただけかもしれない。冗談はさておき、知識を得たオレたちは追加注文でさらに豚焼肉の世界に浸っていった。

レバー、シロのホルモン系も味わう

豚レバーは、冷凍ではないからこそ味わえる逸品。臭みがなく、鉄分たっぷりでさらに元気になる。

荒井さんオススメの豚シロは、濃厚な脂の甘みが噛めば噛むほど口に広がり、酒との相性は抜群だ。日本酒と掛け合わせると持病の痛風が再発しそうなので、ハイボールで一気に流し込む。

鶏モモ、豚ナンコツ、豚コブクロの3種も注文。あっさりとした味わいの鶏モモは食べやすい。豚ナンコツは骨なのか身なのかわからないほど身がみっちりと付いており、食べ応え十分だ。
 

豚コブクロはプリンプリンの感触がクセになり、ジョッキを空ける回数も増えていく。

田原の二大巨頭と白飯で大満足のシメ

最後に、田原の二大巨頭、豚バラとシロをおかわりし、白飯とともにいただく。ほくほくの白米にタレを付けた肉をバウンドさせて、ひたすらにかきこむ。この両者は最強の剣と盾みたいなもので、まずい訳がない。至福のひと時を満喫した。
 

肉と酒で腹を満たしたオレは絶好調となり、知人との懇親を騒がしく深めていると、気づけば乗車予定の電車まで残り15分。うまいものに夢中になると時が過ぎるのは早いと思いつつ、慌てて精算を済ませ店を後にしたのであった。

昭和の味を受け継ぎ、令和に伝える焼肉田原。秘伝のタレと豚焼肉の食文化は、今もしっかりと地元に根付いていた。

Column

【ジモメシ放浪記2】-1

【ジモメシ放浪記2】

富山市郊外にある隠れ家的居酒屋「丹紋」を取材した前回のジモメシ放浪記はこちらから。
※ジモメシとは…地元飯の意味を含み、長年営業を続けている渋めの店で出される料理を指す造語。

味良し・コスパ良しの隠れ家的居酒屋「丹紋(たんもん)」ローカル線で行く県境グルメ!【ジモメシ放浪記2】

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