紙すき一筋28年!八尾に生まれ「越中和紙」を支える職人の人となりとは

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伝統的工芸品「越中和紙(えっちゅうわし)」の一端を担う「八尾(やつお)和紙」は、「越中おわら風の盆」で有名な富山市八尾地区で製作されている。和紙は一枚一枚手仕事で作られ、「型染め」という染色法で仕上げられた品は、目を引く鮮やかな色合いで耐久性に優れる。地元八尾地区に生まれ育ち、製紙作業の「紙すき」を通して伝統的工芸品の維持発展に長年貢献する職人の人となりに迫った。

気さくで朗らかな紙すき職人の加藤祐子さん

まるで、中学校の同級生と話しているようだった。
富山市八尾町で唯一、伝統的工芸品の八尾和紙を製造する会社「有限会社桂樹舎(けいじゅしゃ)」。同社に勤める紙すき職人一筋28年の加藤祐子さんは、吉田泰樹社長の声掛けで仕事の手を止めると開口一番、
「そんなん、ウチのこと聞いてもなんも話にならんよ」
と笑いながら屈託ない表情を見せる。その朗らかな話しぶりは、作業の様子から職人肌の気質と見立てたこちらの思いを裏切り、友人のような人肌の温かみを感じさせた。加藤さんは時折冗談を交えながら、伝統工芸に携わる思いをつまびらかに話し始めた。

Column

越中和紙とは-1

越中和紙とは

越中和紙とは、富山市八尾地区の八尾和紙、南砺市周辺の五箇山和紙(ごかやまわし)、富山県朝日町の蛭谷和紙 (びるだんわし)の3つ生産地で製作されている和紙を総称したもの。産地により用途が異なっており、八尾和紙は「型染め」という独自の染色法で仕上げられた模様紙や紙加工品の製造が特徴。

手作業の仕事に魅力を感じ、伝統工芸の道へ

加藤さんは越中和紙文化が伝わる富山市八尾町で生まれ育った。身内には和紙業に携わる人もいたが、紙すきをしたのは職人になってからが初めてだ。
「小学校の時に紙すき体験があったんですけど、当日風邪をひいて休んじゃって。そこからは全く和紙と接する機会がなくて」
と笑う。高校卒業後に進学した短大で陶芸やステンドグラスを学ぶと、手先を使った作業に楽しみと喜びを見出した。「自分で何かを作る仕事がしたい」と考えた時、頭に浮かんだのは子どもの時に経験できなかった地元の八尾和紙。知り合いの紹介で桂樹舎に就職し、紙すき職人としての道を歩み始めた。
和紙には用途によって様々な寸法と厚さがある。初めは厚さを揃えるのに骨を折った。紙をすいては、やり直す。同じ作業を繰り返しながらも、手仕事が性に合ってどんどんと和紙の世界に夢中になり、気が付いた時には出来るようになっていた。
「3年ぐらいたった時にはだいぶ自信もつき、身に付いたかなあと思うようになりました」
と振り返る。

熟練の技を淡々と 1日約200枚を作る

越中和紙は分業で製作される。すいた和紙を脱水、乾燥させるまでが製紙部門で、いわば八尾和紙の土台だ。加藤さんは一日におよそ200枚をすいている。紙すきの工程はまず、「こうぞ」や「みつまた」などの植物からなる材料を「すき舟」と呼ばれる容器に入れて水を足してかき混ぜ、濃度を調整する。それから紙すき道具の「すき桁(けた)」を使ってすき舟から原料をくみ上げ、桁を上下左右に振りながら厚さと重さを一定にし、しわ一つない紙を作り出す。その作業に入ると加藤さんの雰囲気ががらりと変わる。一定のリズム感をもってすき桁を振る姿は、まるでオーケストラの指揮者のように映る。
和紙はそれからデザインを起こし、のりを塗った後に、本来布を染色する技法の「型染め」で染め上げられる。さらに色を重ね、のりを落として完成する。

繊細な作業は心の整えが肝要

熟練の技を極めてはいるが、繊細な作業に変わりはない。ごくたまに不揃いな紙が出来上がると、和紙乾燥の担当が気付き、「なんか心配事でもあったんけ」とツッコミが入る。
「心の乱れは和紙に現れます。油断したり、他のことに気を取られたりしながら作業していると、たいがい乾燥でダメ出ししされます」
といたずらっぽい笑みを見せる。
「そんなことのないよう、常に平常心を心掛けて作業していきたいですね」
と前を向く。傍目にはひょうひょうと仕事をこなしているように見えるが、実際はひとすきの作業にも細やかな技と心配りが求められるのだ。

紙すき体験の講師もやりがい

加藤さんは桂樹舎で実施している紙すき体験の講師も務めており、体験を通しての観光客とのやり取りにもやりがいを感じている。
「紙すき体験が楽しかったという声はもちろん、八尾和紙を良い仕事だとほめてもらえるとうれしいですね」
とはにかむ。体験は小学生の夏休みの自由研究で受け入れることが多く、また、外国人観光客への体験も受け持つ。
「英語もあまりしゃべれず身振り手振りですが、楽しみながら和紙を知ってもらえるように取り組んでます」
と話す。
 

時代に沿った伝統工芸品を残していきたい

これからの八尾和紙への携わり方については、
「今はレトロブームも相まって引き合いが多いです。でも、伝統工芸品というイメージに縛られ過ぎず、これから先の時代が求められるような品を残すよう柔軟に対応していきたいですね」
と力を込める。桂樹舎は最近では300年続く奈良県の老舗生活雑貨メーカー「中川政七商店」と有名アニメキャラクターのコラボ製品を手掛けるなど、型染め和紙の技術を駆使して時代に沿った製品を創り出しており、加藤さんも今後の八尾和紙発展の一助となろうと汗をかく日々だ。

休日の息抜きは、子どもとのカフェめぐりや推し活動。
同年代の女性と何ら変わらない趣味を見せる一面と、職人として真摯に取り組む表情のギャップが魅力的に映る。地元八尾地区に根を張り、工芸品の伝承と普及のためにせっせと作業に勤しむ加藤さん。じゃばっ、じゃばっ、と一定のリズムを刻む紙すきの音は、28年前から今日まで変わることなく作業場に響き渡っている。

富山市八尾地域とは

八尾地域の街並みには昔ながらの情景がある。かつて養蚕や和紙、生糸業で栄えた同地区には、石畳が敷かれた坂道と格子戸の建物が残り、レトロな雰囲気を醸し出している。
同地区で毎年約20万人が訪れる全国的にも有名な祭が「越中おわら風の盆」で、9月1日から3日間開催される。石畳のある坂道がある諏訪町など町内の各地を浴衣に編み笠をまとった男女がそれぞれの形の踊りで、勇壮に、艶やかに演舞する。おわら節の歌声と哀調ある胡弓の音色が響き渡り、街は優雅な雰囲気に包まれる。
 

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