電源開発の歴史をたどる 黒部宇奈月キャニオンルート-1

電源開発の歴史をたどる 黒部宇奈月キャニオンルート

黒部ダムと黒部峡谷鉄道 欅平駅を結ぶ「黒部宇奈月キャニオンルート」については、欅平駅発、黒部ダム発の2つのルートの旅行商品化を進めてきましたが、令和6年能登半島地震による落石で黒部峡谷鉄道の鐘釣橋が損傷し、令和6年シーズンは黒部峡谷鉄道の全線開通ができないこととなったため、黒部宇奈月キャニオンルートは令和6年中には開始できないこととなりました。
一般開放・旅行商品化の開始日及び旅行商品の販売開始日については、改めて公式ホームページ等でご案内する予定です。

今回は黒部ダム発のルートを紹介します。工事用ルートとして使われている場所を体感しながら、黒部峡谷の奥地の自然と日本の建設史に残る電源開発の軌跡を肌で感じましょう。(※見学場所は、どちらのコースも基本的に同じです)

今こそ立山黒部の大自然を体感しに行こう!

黒部峡谷鉄道は、地震の影響がなかった宇奈月~猫又間で運行中!四季折々の峡谷美をお楽しみいただけます。
そのほか、宇奈月温泉や立山黒部アルペンルートなど、魅力あるスポットがたくさん。
ぜひ、これらのスポットで立山黒部の大自然を体感してくださいね。

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「黒部宇奈月キャニオンルート」

黒部峡谷の奥地にあるくろよん(黒部ダム、黒部川第四発電所の総称)は、7年の歳月と延べ1千万人の労働力によって1963年に竣工しました。高度経済成長期が始まり、関西圏の電力消費が大きくなる中で、関西電力にとって新たな発電所を建設し、電力を増産することは喫緊の課題でした。
立山連峰と後立山連峰の間を縫うように流れる黒部川の上流地域は、降水量や河川勾配などの点で、水力発電における好条件を満たしています。国立公園の雄大な自然景観を守ることや、地形、気候などの厳しい条件から、発電所は地下に建設されることになりました。

専用バスに乗車して、黒部トンネルを進む

今回取材をした「黒部宇奈月キャニオンルート」の始発点は、黒部ダム観光の乗降地である黒部ダム駅。駅に到着すると専用の入り口へと誘導され、ヘルメットを被って荷物のチェックを受けます。案内された先にあったのは、黒部川第四発電所へとつながる黒部トンネル。専用のバスに乗って全長10.3kmの薄暗い一本道を進みます。黒部トンネルには5ヵ所の横坑があり、トンネルを掘削したときの土砂はそこから外へ出していたそう。タル沢横坑への分岐点でバスから下車。200mほど歩いて横坑を進みます。

タル沢横坑から「裏剱」を望む

横坑を進むと、視線の先に切り立つ岩峰に雪を被った剱岳が飛び込んできます。富山平野と反対側の方向から望む剱岳は「裏剱」と呼ばれ、息をのむほど美しい絶景は、本来ならば険しいルートに挑む登山者しか目にすることが出来ない特別な景色です。
また剱岳の雪渓には極東最南端の氷河もあり、間近に氷河を望むビュースポットでもあります。そばには奥黒部の雄大な自然が広がり、眼下には十字峡へ合流する小さな滝も流れていて、岩峰と峡谷が織りなす風景はずっと眺めていたくなるほど美しく、心を打たれます。

インクラインの迫力ある車体に圧倒される

バスを下車すると、インクライン上部乗り場です。インクラインは黒部川第四発電所建設の際に、機材や資材を運搬するために建設された輸送装置で、長さ815m、斜度34度の急傾斜を20分かけて昇降しています。大型の重量物を運搬する際には、人員ケージを取り外せるようになっています。
窓から眺めていると、まるで深部へ落ちるように進み、急傾斜の具合がよく分かります。単線を上下から車両が行き来していて、2台のインクラインが行き交う中間地点まで進むと、シルバーの運搬車の迫力のある構造体の全容を知ることができます。

黒部川第四発電所で、発電の仕組みや周辺の地形を知る

インクラインを下車すると、黒部川第四発電所に到着します。案内された発電機室の真下では実際に水力発電が行われています。発電所の構造物が地下にあるのは、冬場の積雪やなだれなど厳しい自然条件を避けるほか、国立公園の自然景観を守ることなどを目的としているからです。

実際に使われている直径3.3mのペルトン水車が発電機室に立体的に展示してあり、発電機の心臓部では、落差を利用した水の力によって、1分間に360回の速さでこの水車が回転しています。発電所のエントランススペースでは、周辺の地形や黒部川流域の発電所の場所などを大型の航空写真で紹介しています。

作業員用のコンパクトな車両に乗り込む

黒部川第四発電所前から、全長6.5kmの上部専用軌道を走る客車に乗り換えます。腰をかがめて低い姿勢にならないと乗れないほどコンパクトな車両です。資材運搬を目的に造られたのでトンネルの内径も、かなり小さく造られています。欅平上部(竪坑エレベーター乗り場)へ続くこのルートをトンネルにしたのは、急崚な地形で絶壁が立ちはだかり、線路を敷くのが難しかったから。
途中で案内役のスタッフさんが、2002年のNHK紅白歌合戦で中島みゆきさんが「地上の星」を歌ったときのエピソードも紹介しています。

鉄橋から「仙人谷」の自然を満喫

トンネルでほとんど外が見えない上部専用軌道ですが、作業員が乗降する仙人谷の鉄橋からは仙人谷ダムや落差165mの雲切の滝を望めます。深い峡谷を流れるエメラルドグリーンの黒部川、折々の景色は圧倒的な美しさで、ダムのシンメトリーな構造も自然の中に溶け込んでいます。

ところどころに見える白い湯気は、温泉が自噴している場所。ここは黒部峡谷沿いを通る登山道である水平歩道と日電歩道、雲切新道の合流地点でもあります。

黒部川第三発電所建設 最大の難関「高熱隧道」

仙人谷を出発すると「高熱隧道」を通過します。工事が行われていた当時、岩盤の温度が160度を超える地点もあったと言われ、黒部川の冷気を循環させ、作業員に冷水を浴びせるなど熱気をやわらげながら掘り進めた場所です。
また岩盤温度の高さからダイナマイトが不意に爆発するなど工事は難航を極めました。現在も坑内の気温は40度ほどあり、客車の中にいても岩盤の熱気や硫黄の匂いが伝わり、窓ガラスが曇っていくのが分かります。
掘削のときにドリルで岩盤を削った跡も残っていて、工事の大変さが間近で感じられます。上部軌道トンネルと黒部トンネルでは黒部宇奈月キャニオンルートの運行開始に向け、関西電力が安全対策工事を実施しています。

標高差200mを一気に下りる「竪坑エレベーター」

蓄電池機関車を降りると、標高800mの欅平上部に出ます。標高差200mを約2分かけて一気に下りる竪坑エレベーターに乗って、欅平下部へと向かいます。このエレベーターは、黒部川第三発電所建設において仙人谷ダム建設のために造られた輸送ルートで、1939年の建設当時は日本一の標高差がありました。

トロッコ電車で宇奈月温泉へ

欅平下部から工事用トロッコ電車で欅平駅に到着。欅平駅からは、黒部峡谷トロッコ電車に乗ります。オープン車両に乗れば、初夏は新緑、秋は紅葉が楽しめ、心地いい風を肌に受けることができます。すれ違う電車の乗客と手を振り合うのも楽しい時間。ガタンゴトンと音を響かせながら、電車は峡谷を縫うように下っていきます。
終点の宇奈月駅でトロッコから下車。黒部川沿いに湯宿が立ち並ぶ宇奈月温泉街に到着です。美肌の湯に浸かって疲れを癒やし、山海の幸に舌鼓を打って富山の旬の魅力を堪能しましょう。

Column

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提供:関西電力

くろよんの建設工事は困難を極め「世紀の大工事」として小説や映画の題材にもなり、現在にも語り継がれています。工期が長く、513億円という巨額の費用を要した工事は、ダム・発電所建設地点へいかにして到達し、膨大な資材をどうやって運ぶかという難題がありました。工事以前も仙人谷までのルートはありましたが、輸送能力は極めて貧弱で、上流は絶壁にかけられた桟道しかありません。長野県大町市側からの大町トンネル(現在の関電トンネル)の掘削工事では破砕帯との遭遇もありましたが工事は休まず続けられました。

黒部川の電源開発の軌跡をたどる「黒部宇奈月キャニオンルート」をご紹介しました。
最新情報は、公式サイトをチェックしてください。

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