氷見の豊かさを伝える、アナウンサー女将
「民宿あおまさ」女将 青木栄美子さん
氷見(ひみ)市にある、富山湾を五感で味わうことのできる天然温泉宿「民宿あおまさ」。一時は廃業の危機に陥りましたが、2023年4月に現女将の青木栄美子さんが家業の民宿を承継。富山湾を一望できるサウナを作ったり、富山の食の魅力をSNSで発信したりと、民宿の再興に向けて取り組んでいます。
2024年元日に発生した「能登半島地震」の際には、いち早く炊き出し活動を行うなど、精力的に復興活動を行ってきました。
氷見から富山の魅力を伝えようと取り組む、若き女将の姿を見せてもらいました。
廃業危機の民宿を、夫婦で承継
「民宿あおまさ」は、1972年に青木さんの祖父が創業しました。
長らく地元客から愛されてきましたが、後継者が不在だったことから、コロナ禍には廃業を検討する事態に陥ります。
元々はフリーアナウンサーとして活動していた青木さん。警察官だった夫の隆雄さんとの結婚を機に、家業の民宿を継ぐことを決意しました。「当初は全く継ぐつもりはなかった。廃業の危機だと聞いた夫から『2人でやってみよう』と誘ってもらえたことで、踏み出す勇気をもらえた」と当時を振り返ります。
承継前は、客の多くが地元客でしたが、現在は県外からの観光客が6割を占め、サウナが好きな若い世代も増えています。
民宿あおまさ
住所|富山県氷見市窪3203-1
電話|0766-91-5157
営業時間|チェックイン:16:00~ / チェックアウト:10:00
休業日|不定休
料金|■1泊2食料金 【金曜以外の平日】16,500円~ 【金・土・日・祝日他】18,700円~
■素泊まり料金 【金曜以外の平日】8,800円 【金・土・日・祝日他】11,000円
■サウナ2時間半貸切 2名 8,800円(3名以降は 2,200円)
波の音と共に過ごす、やすらぎの空間
民宿あおまさは、目の前に広がる富山湾越しの雄大な立山連峰を一望できる絶好のロケーションにあります。客室は全てオーシャンビュー仕様です。地下1,200mから湧き出る天然温泉は、一風変わった琥珀色をしており、独特の濃厚な香りが特徴です。体が温まる美肌の湯としても人気を集めています。
「富山湾を眺めながらサウナに入り、海の幸を味わった後は、波の音と共に眠る。海直結の宿だからこそ、五感で海を楽しむことができる」と話します。
富山湾や海越しの朝日を満喫できるオーシャンビューサウナ
承継の際に新たに作られたのが、「三度の飯よりサウナが好き」と話す隆雄さんこだわりのプライベートサウナ。最大10名まで収容でき、水風呂は地下水と温泉の2種類を用意。
砂浜まで10歩の位置にあるため、そのまま海に飛び込んでクールダウンすることもできます。
宿泊客は早朝のサウナ利用が可能なため、富山湾から昇る朝日の光が、辺り一面を明るく染める様子を眺めながら「ととのう」ことができるそう。
隆雄さんは「海を一望できるサウナにするために、ガラス張りのオーシャンフロントにこだわって作った。
ここでしか味わえない、朝日を浴びながら入るサウナは格別」と話します。
富山らしさを伝える、旬の海鮮料理
承継後は、料理の一新にも取り組んだという青木さん。
これまでは県産に限らず、手軽な価格帯で味わえる料理を提供していましたが、承継後は県産にこだわった、四季折々の旬の海の幸を提供しています。
刺し身や焼き魚の他に、春にはホタルイカの沖漬けや、冬には「ひみ寒ぶり」のブリしゃぶなど、富山が誇る食の魅力を伝えています。
アナウンサー時代に、県内の漁師や農家の方を取材していた経験を活かし、提供の際には食材がどのように取れるのか、どんな生産者なのかを丁寧に説明するそう。「氷見の魅力は、何を食べてもおいしい豊富な海の幸があること。承継後は、富山らしさや氷見らしさを武器にしていこうと家族で話し合った」と語ります。
地元客にも観光客にも愛される民宿を目指して
県外からの観光客が増えてはいるものの、今でも民宿には多くの地元客が足繁く通っています。
「氷見には、冠婚葬祭や送別会、家族の誕生日などを民宿でやる文化がある。
県外からの観光客と地元客では食べたいものが異なるため、料理の内容を変えて提供したり、利用するシチュエーションに応じた接客を心がけたり工夫している」と語ります。
「小さい宿だからこそ、お客様とは密にコミュニケーションをとるように意識している。親戚の家に遊びに来たような、ホッと安心できるような場所を提供したい」と話します。
炊き出し活動が結んだ、地域との縁
承継後1年を経たずして、発生した「能登半島地震」。氷見市も断水や液状化による被害が大きく、民宿の予約も軒並みキャンセルとなりました。
青木さんは震災当日は高台に避難していましたが、翌日には建物の無事を確認し、温泉を開放。炊き出し活動を開始しました。
「避難していた時は、この先どうなるのか分からず、非常に心細かった。宿と家族の安全が確認できたため、困っている人がいるのであれば、やるだけやってみようと思った」と当時を振り返ります。
炊き出しには、氷見市や甚大な被害を受けた能登地方から、計450人以上の被災者が訪れました。その様子はTVなどで報じられ、民宿には全国各地から匿名で数多くの物資が届きました。
「『5日ぶりにお風呂に入ることができた』『久しぶりに温かいご飯を食べられた』と涙を流されている方もいた。最近は『炊き出しの時はお世話になりました』と来訪してくれる人もいる。自分達だけではやりきれなかったと思うし、支えてもらった縁を感じている」と話します。
氷見の豊かさを発信する
現在もフリーアナウンサーと女将の二足のわらじで活動している青木さん。SNSの総フォロワー数は2万人を超え、さまざまな媒体を通じて氷見の魅力を発信しています。
「宿のことだけを発信するのではなく、氷見全体が魅力ある地域だということを知ってもらいたい。高価格帯の宿ではないからこそ、氷見の暮らしの豊かさや宿を営んでいる私達の人となりを知ってもらえるような発信を心がけている」と話します。
「アナウンサー時代は、自分の夢を叶えるべく、必死に突き進んできた。今は家族との時間を大切にしながら、やりたいことに挑戦できる環境があり、日々幸せを感じている。宿を大きくすることよりも、とにかく地元で愛されながら続けていきたい」と話す青木さん。その姿からは、次世代の氷見の観光業を担う、若き女将の情熱が感じられました。