イタリア料理で土地の恵みを表現する
「アグリツーリズモ ヴィバ・ラ・ヴィータ」
オーナーシェフ 牧谷政睦さん-1

イタリア料理で土地の恵みを表現する
「アグリツーリズモ ヴィバ・ラ・ヴィータ」
オーナーシェフ 牧谷政睦さん


石川県との県境に位置する小矢部(おやべ)市。雄大な自然に囲まれた宮島峡(みやじまきょう)や、週末は多くの利用客でにぎわう三井アウトレットパーク 北陸小矢部には、富山県の西の玄関口として多くの人が集まります。

小矢部市の山麓にある自然豊かな屋波牧(やなみまき)集落に、2024年5月、古民家を改装した北イタリア料理を提供するレストラン兼宿泊施設「アグリツーリズモ ヴィバ・ラ・ヴィータ」がオープンしました。

オーナーシェフの牧谷政睦(まきたに・まさちか)さんに開店の経緯や思いをお聞きしました。

アグリツーリズモとの出会い


宮島峡からほど近い屋波牧集落で生まれ育った牧谷さん。
学生時代から、将来は自然豊かなこの地で何かできないかと考えていました。

大学生のときに読んだ本で「アグリツーリズモ」を知ります。当時はイタリアでも地域の過疎化が社会問題になっていました。その解決策として農村や農場で休暇を過ごし、その土地の食材を使った料理でおもてなしをする、アグリツーリズモ
という観光形態が生まれました。

自然豊かで食材にも恵まれながら、過疎化が進む故郷とイタリアの田舎を重ね合わせた牧谷さん。アグリツーリズモの理念に感銘を受け料理人になることを目指します。

イタリアで単身修行


大学卒業後、富山市内のレストランで勤務します。数年後、知人の紹介などもあり北イタリアに渡って料理の腕を磨きました。北イタリアでは、ヴェネツィア近郊やスロベニアとの国境に接するフリウリ・ヴェネツィアジュリア州(以下フリウリ)、ミラノ近郊などのレストランで修行しました。

フリウリで働いたレストランは、アグリツーリズモを実践し宿泊施設を兼ねた場所でした。「料理はもちろん、ここでさまざまなことを学びました。私にとってお手本にもなるレストランで学べたことは貴重な経験でした」と当時を振り返ります。

アグリツーリズモ ヴィバ・ラ・ヴィータの開店


約1年半の渡伊後、2002年に富山市呉羽町でイタリア料理店「トラットリア ヴィバ・ラ・ヴィータ」をオープンしました。07年には同市安田町に移転しました。牧谷さんが腕を振るう北イタリアの郷土料理は人気を博しました。

その間にも、アグリツーリズモの実践に向けて準備を進めていました。農家だった実家の田んぼや畑で農業を学び、幼なじみが住んでいた古民家を改装し、新店舗に仕立てました。
2024年3月に富山市内にあった「トラットリア ヴィバ・ラ・ヴィータ」を閉めました。同年1月には能登半島地震もありましたが、幸いにも影響を受けることなく、5月から宿泊施設を兼ねたレストラン「アグリツーリズモ ヴィバ・ラ・ヴィータ」を移転オープンしました。

 

information


アグリツーリズモ ヴィバ・ラ・ヴィータ
住所|小矢部市屋波牧11
電話|050-1807-4435 予約は予約サイトから
営業時間|ランチ 12:00~15:00(1日3組限定)
     ディナー 17:30~

休業日|木曜日 ランチは金曜日も休業 
料金|■ランチ 【月~水】7,700円~ 【土・日・祝日、ハイシーズン】9,900円~
   ■ディナー 【月~水】9,900円~
   ■ディナー&ご宿泊 【月~水】33,000円~ 【金土日・祝前日】37,500円~ 【ハイシーズン】42,000円~

    ※いずれも要予約 ※価格はシーズなどにより異なります

小矢部のアグリツーリズモ体験


アグリツーリズモを実践するため、牧谷さんは食材にこだわっています。
移転を機に導入した薪窯を使って焼く小矢部のブランド肉「稲葉メルヘン牛」や「メルヘンポーク」は看板商品の1つです。「炭とも違う薪ならではの香りで、小矢部の恵みを楽しめます」と話します。

薪窯調理の可能性を広げるため、時間がある際は新メニューの開発にも楽しみながら取り組んでいると言います。

 


お店で使う野菜や米などは、自家農園で有機肥料にこだわって栽培しているものを中心に使います。「日本の野菜をはじめ、アーティチョークやラディッキオなどイタリアの野菜も含めて17種類ほどを栽培しています。店先でもハーブを育てていて、料理の前に摘んで使っています」と、こだわりを教えてもらいました。

周辺に自生する梅や銀杏なども活用しています。はちみつに漬けた梅は、ワインやソーダで割ってウェルカムドリンクとして提供しています。

 

北イタリアの郷土料理


「北イタリアの郷土料理」を楽しんでもらうこともこだわりの1つです。「イタリアにいたころに、現地のトラットリアを食べ歩きました。そこで出会っておいしいと思ったものをみなさんにも楽しんでもらいたいです」と話します。

その1つが、フリウリの郷土スープである「ヨタ」です。
「イタリアではあまり見かけないザワークラウト(キャベツの漬物)を使ったスープです。国境を接するスロベニアなど他国の食文化と融合してできた、フリウリならではの味を楽しんでもらいたいです」と話します。

白ワインの名産地でもあるフリウリ。現地のように食事とお酒を楽しんでもらえるよう、床の間と仏間を改装したワインセラーにはこだわりのワインが並びます。県内のクラフトビールや日本酒も取り揃えており、宿泊込みのディナーではゆっくりとお酒と共に食事を味わうことができます。

 

持続可能な土地を目指して


土地ならではの恵みでおもてなしをする「アグリツーリズモ」。実践するにあたってイタリアで学んだことは料理だけではなかったそうです。「イタリア人は壊れた家具を修理して使い続けるなど、モノを大切に使う文化がありました。今あるものを大切に残そうとする意識が、イタリアの文化に根付いていると気づきました」という牧谷さん。

屋波牧集落や小矢部の豊かさを次世代にも残そうと地域資源の活用や循環にも積極的です。「お客さま用のナイトウェアには、県産のハトムギをアップサイクルしたブランドのものを使用しています。小矢部の中でさらに循環できるような取り組みも行いたい」と将来に向けた展望も語ります。

「この地の豊かさを、イタリア料理という自分のこだわりの中で表現できるように意識しています。ぜひこの地に来て、土地の恵みを楽しんでほしいです」。念願だった牧谷さんのチャレンジはこれからも続きます。

この記事を見た人はこんな記事を見ています