魚津ガイドのスペシャリスト!
とやま観光塾上級認定ガイド 伊東清隆さん
富山県東部に位置する魚津市。
北西は日本海、南東は北アルプスに囲まれており、「蜃気楼(しんきろう)の見える街」としても有名です。
そんな魚津市の玄関口であるあいの風とやま鉄道・魚津駅に併設される「魚津駅観光案内所」を拠点にガイドを行っている「観光ボランティアじゃんとこい」会長でとやま観光塾上級認定ガイドの伊東清隆さんを訪ねました。
ふるさと魚津を学びなおした
魚津市生まれ、魚津市育ちの伊東さん。高校卒業後は長らく富山を離れていました。
親の介護もあって定年後に帰郷。一段落して気が付いたのは、「地元のことを何も知らない」ということだったそうです。
そこで、さまざまな勉強会や探訪ツアーなどに参加し、時間を取り戻すかのように、伊東さんは学び始めます。
現在は、魚津エリアでただ一人「とやま観光塾」の上級ガイドに認定され、ガイドの達人となりました。
「じゃんとこい」は、「たくさん来てください」という意味
「じゃんとこい」は、魚津で生まれ育った人ならたいていは踊ることができる「せりこみ蝶六」のおはやしの合の手です。
この言葉には「たくさん来てください」という意味があります。
魚津では、8月第1週の金曜・土曜に、ユネスコ無形文化遺産に登録された「たてもん祭り」や「せりこみ蝶六街流し」などが楽しめる、「じゃんとこい魚津まつり」が開催されます。豊漁と航海の安全を祈願して、お供え物を山と積んだ形、あるいは帆を揚げた船をかたどったとも言われる“たてもん”は高さが約16ⅿ、総重量は約5トンあります。
「昔は、もっと“たてもん”を曳き回す祭りは各地にあったのだけども、電線が邪魔をするようになって、高さを下げた曳山へと変化した所が多く、魚津では、浜辺でソリを曳いていたから、このスタイルが残ったんですよ」と伊東さん。
地元の人でも知らないエピソードを絡めたガイドが好評です。
日本海側初の「水族館」と県内唯一の「遊園地」
魚津駅からは、市のイメージキャラクター“ミラたん”が描かれた色とりどりの魚津市民バスが出ています。
市民の足としてばかりでなく、観光客にとっても便利なバスで、東回りの赤いバス、西回りの青いバスの市街地巡回ルートは、魚津と言えば多くの人が思い浮かべる「魚津水族館」など、主要スポットへ向かうのに、伊東さんもおすすめしています。
「魚津水族館」は、日本海側初の水族館として開業しました。
3代目の現水族館は少しレトロな印象ですが、旬をとらえた展示が人気です。
そして道路をはさんで向かい合うのは、富山県内唯一の遊園地「ミラージュランド」。
伊東さんは、県外で暮らしている間、山と海が奇跡的に近い魚津の風景が忘れられなかったと言います。
大観覧車からは、富山湾と北アルプス立山連峰が一望できる、そんな大パノラマを楽しむことができます。
「今日、蜃気楼は見られますか?」
「今日、蜃気楼は見られますか?」というのは、伊東さんがよく受ける質問だそうです。
「蜃気楼は春型がメインですが、ランクを問わなければ、実は冬の方が頻繁に出現するんですよ」と、説明してくれました。
魚津港周辺約8㎞の「しんきろうロード」は目撃しやすいポイントです。
「『海の駅 蜃気楼』は食事しながら発生を待てますし、『魚津埋没林博物館』ではカフェでスイーツも楽しめますよ」と、お腹のことまで心配してくれる伊東さん。実は、“埋没林”とともに“蜃気楼”も主役の「魚津埋没林(まいぼつりん)博物館」周辺には“蜃気楼の丘”があり、もし蜃気楼が見えた場合は、申告すれば、魚津市観光協会発行の証明書をもらえます。
残念ながら出合えなかったとしても、300インチのハイビジョンスクリーンで、蜃気楼の映像を楽しみ、発生の仕組みを学ぶことができます。
「米騒動」、「魚津城の戦い」歴史スポットは想像力を働かせて
さまざまな観光ジャンルの中でも、伊東さんは特に歴史を絡めたガイドが得意です。
魚津市は「米騒動発祥の地」。富山県内をロケ地とした2021年公開の映画『大コメ騒動』をきっかけに、魚津市も話題になりました。全国的に見ても、「米騒動」が起こった現場に、当時の建物が現存するのは、旧・十二銀行(現・北陸銀行)の米倉庫の他にはなく、大変貴重なスポットです。
テレビドラマで“魚津城の戦い”が注目されたこともありました。
「魚津城」は、金山のあった「松倉城」の流通ルートである角川(かどがわ)河口に位置していました。
そして「松倉城」は室町時代から約250年にわたって幾多の武将が城をめぐり争う、新川郡の要でした。
魚津にはこうした城跡がいくつかあるのですが、当時をしのぶものは多く残されていません。
そんなスポットこそ伊東さんの案内が光ります。たとえば「松倉城跡」には、南北350ⅿにわたり、空堀によって区切られた5つの曲輪(くるわ)が並んでいるのですが、そうした遺構を具体的にガイドすることによって、お客さまの想像力が膨らむのです。
あくまでニーズに合わせて、とのことでしたが「本気を出したら2時間かかりますよ」と、笑う伊東さんでした。
魚津の“水”をめぐるドラマ
伊東さんは、魚津の水循環に関わる場所に案内する「水の学び舎ツアー」の市民ガイド“水守(みずもり)”としても活躍しています。駅前でも手軽に「うまい水」は飲めますが、自然に恵まれた魚津では、水のテーマに事欠きません。
市街地から車で約30分走った片貝川上流域には、樹齢500年〜1000年以上の立山杉の巨木が100本以上群生する「洞杉(ドウスギ)」があります。幹に空洞があるものが多いことからこう呼ばれ、雪の重みに耐え大きくうねった、崖からせりだしたり転石を抱え込んだりした異形の姿は、特有の自然環境と長い時間が生み出した造形です。
自然が生んだドラマもあれば、人間が知恵を生かしたドラマもあります。
国の登録有形文化財に指定されている「東山円筒分水槽(ひがしやまえんとうぶんすいそう)」は、水害や水不足に悩まされていた東山地区三つの用水に公平に水を分配するために造られました。
上流からの水量の変化に影響されることなく、多いなら多いだけ、少ないなら少ないなりに公平に分配されることで水争いはなくなり、またその外観は“日本一美しい円筒分水槽”とも評されています。
いずれも写真映えスポットやパワースポットとして人気が高いようです。
縁あって出会えた人に“寄り添う”
ふるさとへの深い知見が評価される伊東さんですが、周囲の声を聞くと、さらに魅力的なのは、その紳士的で親切な人柄だと気づかされます。観光案内所には、旅行者はもちろん、先祖のルーツを探し求めて遠方から訪れる人など、さまざまな背景の方がやってくるそうです。
旅のお手伝いばかりでなく、案内所を訪れる人にも寄り添い、時には、しかるべき支援先につないだり、一緒に調べたり、探したり、考えたりと、縁あって魚津にやってきた方に、できる限り力になろうとする姿が、そこにありました。
もしかすると、そんな血の通ったコミュニケーションこそが、「魚津にまた来たい」と思わせるのかもしれません。
そんな伊東さんも魅了された魚津の街に足を運んでみてはいかがでしょうか。