トンネルを抜けた先に現れる秘湯の一軒宿
小川温泉元湯「ホテルおがわ」副支配人 小松 健志さん
富山県の最東端に位置する朝日町。
ヒスイ海岸が有名なこの町の山あいのトンネルを抜けた先に、光とともに突如現れるのが、朝日町湯ノ瀬(あさひまちゆのせ)の秘湯・小川温泉元湯「ホテルおがわ」です。
今回お話を聞くのは、2023年10月に副支配人に就任したばかりの小松健志さん。
観光業界は長い小松さんですが、「ホテルおがわ」に入社したのは2年前とごく最近です。
そんな小松さんから見た、この宿の魅力についてお話をお聞きしました。
自分を解放し、癒やしてくれる 源泉かけ流しの炭酸水素塩泉
開湯は400年以上前の江戸時代初期、旅館の創業は明治19年と、長い歴史を誇ります。
お湯の良さが評判を呼び、泉鏡花が小説の舞台として「湯女の魂」を書き上げ、竹久夢二が来館するなど、文化人にも愛されてきました。
小川温泉ならではの強みを尋ねると、「これより先に道はない一軒宿ですから、究極のプライベート感と、やはりお湯の良さですね」と小松さん。客室でのんびり過ごしているだけでも、川のせせらぎや、鳥のさえずりに心が安らぎます。野天風呂では、温浴とともに森林浴ができ、自分を日常から解放するのに、これほどの環境は滅多に見つかりません。
100%源泉かけ流しのお湯は、県内でも珍しい“炭酸水素塩泉”で、体を内と外から癒やし、芯から温めてくれます。“美肌の湯”であると同時に、昔から、近隣の農家や漁師の方たちも足繫く通う“湯治場”としての伝統があり、さらに“子宝の湯”としても名を馳せてきました。
インバウンドにも好評の 天然洞窟野天風呂
宿から歩いて7~8分のところに、名物の「天然洞窟野天風呂」があります。
幅18ⅿ、高さ20ⅿというスケールで、湯の華が凝固した「小川元湯(おがわもとゆ)の石灰華(せっかいか)」は、朝日町の天然記念物に指定されています。光と影、安心感と爽快感、相反するような感覚が一度にせめぎ合う、不思議なお風呂です。
特に、お風呂文化のない外国人観光客にとっては、外の洞窟で、しかも湯浴み着を着ているとはいえ混浴であることも、ここでしかできないエキゾチックな体験として、好評だそうです。
洞窟野天風呂と、すぐそばにある女性専用の「蓮華(れんげ)の湯」は12月から4月下旬までは閉鎖されますが、露天の岩風呂や檜風呂、大浴場から眺める雪景色にも、日本の情緒を感じられます。
飲める温泉水を生かした 地産地消の料理
小川温泉の湯は飲泉もできるため、その恵みは宿の食事にも生かされています。
釜めしや朝食のおかゆを炊く際に、ミネラル豊富な温泉水を使うと、「ほんのり塩味がプラスされて、それがいい塩梅(あんばい)なんです」と、目を細める小松さん。また68℃ある源泉で魚を蒸し上げると、身がふっくらしておいしいのだそうです。
朝日町は山と海が近接する類まれな場所。宿の周囲は、渓流で育った川魚や、春には山菜、秋にはキノコなど、山の幸の宝庫ですが、実は漁港にも近く、シロエビやホタルイカ、ブリ、ベニズワイガニ、バイ貝といった、新鮮な富山湾の幸を味わうことができます。
海洋深層水の塩や、地元で作られる刺身によく合う甘口醤油を使うなど、調味料にもこだわっています。
四季折々の食材が膳をにぎわす地産地消の料理は、この宿の自慢の一つです。
ローカルを大切にする “記念日の宿”
もともと地元の慶事によく利用されていた「ホテルおがわ」。
経営が変わり、日帰り昼食プランをしばらく取りやめていた時期もありましたが、現在は復活。再び、町内の方たちが、還暦や古稀、米寿といった長寿のお祝いなどで集うようになっています。ちなみに、家族が持参しなくても、ちゃんちゃんこや花束などを用意できるそうです。宿泊についても、結婚記念日や誕生日などの大切な記念日に選んでもらえる宿を目指しています。
地元の方の憩いの場であると同時に、県外からのお客さまには、朝日町らしさを感じてもらえるよう、要望があれば、町の伝承館の女性たちの協力を得て、黒茶を茶せんで泡立てながら、気取らずにぎやかにお茶を楽しむ「バタバタ茶」の体験をしていただくこともできます。
温かいベテランスタッフとともに 温泉の歴史を未来へ
副支配人となり間もない小松さんを支えているのは、ベテランスタッフの皆さん。
地元に住んでいる人が多く、朝日町の良いところをたくさん知っています。
世界的にも珍しい、海から翡翠(ひすい)が打ち上げられる「ヒスイ海岸」や、残雪の後立山連峰を背景に、舟川沿いのソメイヨシノ、チューリップ、菜の花が楽しめる「春の四重奏」はもちろん、初夏にはラベンダーが咲き誇る「ハーバルバレーおがわ」、国道8号線に、郷土料理の“たら汁”提供店が立ち並ぶ「たら汁街道」など、この土地ならではのスポットを親切に紹介してくれることでしょう。
温かみのある富山弁でのおもてなしには、地元のお客さまは親近感を覚え、県外からのお客さまは旅情をかきたてられるようです。これからもワンチームで、歴史ある温泉の一日一日を重ね、未来につなげていきます。