挑戦し続ける、氷見の名物女将
「湯の里いけもり別館AMAZA」池森典子さん-1

挑戦し続ける、氷見の名物女将
「湯の里いけもり別館AMAZA」池森典子さん

2022年9月、富山県の北西部に位置する氷見(ひみ)市に、「心と体に優しいユニバーサルデザインの上質な宿」をコンセプトにした「湯の里いけもり別館AMAZA」がオープンしました。

女将である池森典子さんは、1989年創業の温泉民宿「湯の里いけもり」、富山の地酒が楽しめる日本酒バー併設のゲストハウス「蔵ステイ池森」の計三つの異なるコンセプトの宿を手がけています。

池森さんが氷見の観光業を盛り上げようと取り組む姿に感化され、宿泊客の中には氷見に移住し、街なかで飲食店を開業した方もいるそう。名物女将が新たに立ち上げた宿で、氷見の観光振興に本気で取り組む姿を見せてもらいました。
 

氷見を知ってもらうために、都市部や海外を駆け巡る


結婚したことを機に、「湯の里いけもり」で2代目若女将として働き始めた池森さん。
当初は県内団体客を中心に予約が埋まっていた民宿も、時代の流れとともに次第に客足が遠のくようになってきました。危機感を感じ、自ら都市部や海外の旅行会社に出向いて氷見のPR活動を始めます。

「周囲の反対もあったが、結果としてこれまで氷見に来たことがなかった人たちが訪れるようになった」と当時を振り返ります。


 

思わず移住したくなるゲストハウス


2019年には商店街の空き物件をリノベーションし、日本酒バー併設のゲストハウス「蔵ステイ池森」をオープン。宿では食事を提供せず、宿泊客の好みに合わせて近隣の店を紹介する「泊食分離」がコンセプトです。

「氷見にはおいしい店がたくさんあるのに知られていない。宿から魅力を発信したいと思った」と話します。
宿泊客と地元民の交流の場にもなっており、氷見を気に入り、そのまま移住を決めた方が何人もいるそうです。

 

先代の「閉じたい」からはじまった、新しい宿づくり


2020年、突如襲ったコロナ禍の影響により、先代から「民宿を閉じたい」と打ち明けられたことを機に、池森さんと、夫で板前として厨房に立っていた里志さんは跡を継ぐことを決意します。また、池森さんはこの時に新たな宿の立ち上げも決意します。

「人口が減少している中、いまの形態ではいずれ難しくなる。体の不自由な母を温泉に入れてあげられなかったことが心残りで、誰でも楽しめるような優しい宿をつくりたいと思った」と振り返ります。
 

機能性と美しさにこだわったユニバーサルデザイン


2022年秋に「湯の里いけもり」の一角をリノベーションし、ユニバーサルデザインに配慮した宿「AMAZA」をオープン。
バリアフリー対応はもちろん、家具の形状に至るまで、車いすで移動しやすいようになっています。

「快適に過ごしてもらうために、手すり一つにしても機能性と美しさにこだわった」と話す池森さん。
「せわしない日常から離れ、自然あふれる氷見の里山を散策し、リラックスしてもらいたい」と、電動アシスト付き車いすの無料貸し出しも行っています。

 

車いすのまま入浴できる貸切露天風呂


貸切露天風呂の浴槽には、全国でも3件しか設置されていない特殊装置により、床がエレベーターのように昇降し、専用の車いすに乗ったまま入浴することができます。温かい湯に浸かりながら満天の星空を眺められるように、設置の角度までこだわったそうです。「最期に温泉に入れてよかったと、泣いて喜ばれる方も多い」と話します。

 

最高級のおもてなしは、細部から


「AMAZA」を作るにあたって「最高級のおもてなしをするためには一切妥協しない」と決めた池森さん。ベッドは最高級の米国製のセミダブルベッドを用意し、タオル・ソープ類もオーガニックで体に優しいものをそろえました。

素材選びからデザインまでオリジナルで作ったパジャマは、ハトムギのぬか油を配合し、素肌になじむ、しっとりと柔らかな肌触りになっています。

 

氷見の歴史や風土を伝える創作料理


「食を通じて、氷見の歴史や風土に思いをはせてもらう」をコンセプトに提供される料理は、富山湾の海の幸や、里山で収穫された無農薬野菜、自家栽培しているリンゴなど、旬の素材を使った創作コース料理。盛り付ける器も、県内作家の作品を使用しています。

提供の際には、400年以上の歴史を持つ氷見の定置網漁業や魚の鮮度を保つ保存法など、丁寧に説明します。「なぜ氷見の食はこれほどおいしいのか、知ってもらうことが大切」と池森さんのこだわりが感じられます。


 

「何もない街」からの脱却。挑戦が連鎖し、新たなにぎわいに


「蔵ステイ池森」や「AMAZA」を立ち上げる際には、これまでにない宿を設けることに、家族や周囲からは大反対されたそうです。「こんな何もない街では無理だ」と言われたこともありました。
「動かなければ、何も始まらない。強い信念を持って進み続けたことで、ようやく理解してもらえた」と話します。

「新しい店がどんどん増え、少しずつ街がにぎわってきている。
氷見はこれからもっと面白くなる」と池森さんは期待に胸を膨らませています。

 

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