ありのままをととのえ、光をみせる。「閑乗寺公園」 楠則夫さん
八乙女山の麓、標高約300mに広がる「閑乗寺(かんじょうじ)公園(南砺市井波)」。
砺波平野から富山湾までを見渡すことができる県内有数の展望スポットであり、キャンプやBBQを楽しむ人たちがのびのびと過ごしています。きれいに整った芝生が広がり、思わず足取りも軽快に。閑乗寺公園を運営する楠則夫さんにお話しを伺いました。
暮らしと営みが紡いできた散居景観
「閑乗寺公園」の最大の見どころは、美しい散居村(さんきょそん)の眺望です。
散居村とは、田園の中に住居が点在している集落形態のこと。
砺波平野における散居村の特徴は、住居の周りを囲むカイニョと呼ばれる屋敷林です。
カイニョは風や雪などから家屋を守ると同時に、夏の暑さや冬の寒さを和らげる役割を果たしています。
「散居村は地域の宝です。個人の努力だけで生み出せるものではありません」と話す楠さん。地域ならではの伝統的な暮らしの要素や営みがあるからこそ、となみ野の散居景観は維持されてきました。
そして今も私たちに感動と安らぎを与えてくれています。
地域に愛されてきた「閑乗寺公園」
「閑乗寺公園」は1972年に開園し、地域の人たちを中心に長年愛されてきました。
散居村を一望できる憩いの場として。さらに冬季はスキー場として。1年を通して人々が集い、交流を深めてきました。
井波で生まれ育った楠さんにとっては、学生時代にスキーやキャンプを楽しんだ場所です。特に中学時代にボーイスカウトでキャンプをした経験は、自然と触れ合うことが大好きになった思い出だと語ります。
自然こそが人びとが集まる資源
2013年に閑乗寺スキー場が廃止となり、跡地活用の議論が始まりました。
楠さんは井波地域の各種団体や有志で構成されたワーキンググループのメンバーとして、閑乗寺公園の活性化に向けて活動をスタートしました。さまざまな提案がある中、「この場所に人工のものを新しく加えるのではなく、広々としたありのままの自然を生かしたい。広場をきれいに整備し、自由にのびのびと遊べる場所にしたい」と、今ある資源をそのまま生かすことを第一に考えた楠さん。
思い描く公園の姿を実現するべく、地域に愛着のある仲間たちに声をかけ、任意団体「閑乗寺そよ風の会」を結成。2015年から南砺市より「閑乗寺公園」の指定管理を受け、活動をスタートさせました。
“ととのえる”ことで生まれる心地よさ
新たにスタートした「閑乗寺公園」では、キャンプサイトの整備に力を入れてきました。
「気持ちよく遊べる場所には人が集まり、人が人を呼ぶ」。そう確信していた楠さんは、まず草刈りやキャンプサイトの拡張など、徹底的に公園をきれいにすることから始め、利用しやすい環境を整えました。
現在は五つのエリアに合計約100張のテントを張ることができ、全国からキャンプ好きが訪れる人気スポットとなっています。また、持ち込み企画の相談が相次ぎ、利用者が「閑乗寺公園」を自分たちのフィールドとして活用をするケースも増えています。
「お客様がキャンプやイベントの様子をSNSで発信してくれているのも、人が集まるエネルギーになっています。それぞれ思い思いの楽しみ方で過ごしてほしいですね」と笑顔を見せてます。
地域の伝統とのコラボレーション
井波彫刻と触れ合うことができるのもこの地域ならではの特徴です。
瑞泉寺(ずいせんじ)の再建とともに発展し、約600年の歴史を重ねてきた井波。人口8,000人のまちに約200人の彫刻師が住み、まちの文化を築き上げてきました。
楠さんの発案で、地域の彫刻師たちと共に木彫りのキャンプ用品を制作し、販売を始めました。これをきっかけに若手彫刻師とのコラボレーションも増え、施設の看板や遊具の制作など、井波彫刻とキャンプ場のタイアップが活発になっています。
次へつなぐ仕組みをつくる
「10年、20年、その先の未来にもこの活気を継続させていくために、若い人たちの力を大切にしていきたい」と楠さん。
自然やキャンプが好きな若手スタッフを運営チームに迎えてから、活動がよりエネルギッシュになりました。前向きな新しい提案が増え、ウェブサイトのリニューアルや、日々のSNSでの発信を実施。遠方からも利用客が訪れるようになりました。
指定管理初年度のキャンプ利用客は約1000人。毎年利用客がどんどん増加し、昨年度は約1万2千人が訪れました。
若手スタッフが中心となって導入したウェブ顧客管理システムのおかげでスムーズに対応できています。新しい技術やアイデアを取り入れながら、次の世代に自信をもってつないでいけるような仕組みを整えています。
「閑乗寺公園」を出発点に
まちと自然の距離が近いことも閑乗寺公園の魅力の一つです。
井波のまちでは近年、パンやコーヒーなどのこだわりを感じるお店が続々と開業し、若い世代を中心ににぎわいを見せています。公園から井波のまちなかには車で5分程度と、気軽にアクセスできます。
「キャンプやコテージを楽しむことはもちろん、閑乗寺を拠点に八乙女山登山やまち歩きなど、地域を楽しむ次のアクションへつながる拠点になるとうれしいです。まだまだ生かされていない地域ならではの“いいもの”がたくさんあります。
まち・里・山が連携して、自然に親しむ活動を盛り上げていきたい」と未来に目を輝かせました。