「LOCOMOTION COFFEE AND BED
(ロコモーション コーヒー アンド ベッド)」後藤早瑛子さん
カフェ&ゲストハウス「LOCOMOTION COFFEE AND BED」は、立山黒部アルペンルートの玄関口である立山駅前にあります。
立山駅は富山地方鉄道立山線の終着駅であるとともに、美女平(びじょだいら)までを約7分で結ぶ「立山ケーブルカー」の発着駅でもあります。立山黒部アルペンルートの室堂(むろどう)や黒部ダム方面へ向かうとき、立山駅から先はマイカー通行ができません。そのため山岳観光を楽しむ多くの人が利用しています。
後藤早瑛子さんは2022年の秋に開業した「Locomotion Coffee And Bed」の店長。
おもてなしや施設づくりについて大切に考えていることを教えてもらいました。
新たな目標に向かい、Uターンを決意
「LOCOMOTION COFFEE AND BED」が開業する以前、この場所には後藤さんの祖母が所有する建物や別の人が運営していた旅館跡があり、祖母の建物はマイカー回送を行う会社の事務所として使われていたそうです。
後藤さんの母が経営する会社のプロジェクトで、建物を有効活用しようという話が持ち上がります。
当時、後藤さんは宝石バイヤーとして東京を拠点に海外を飛び回っていましたが、コロナ禍で思うような仕事ができなくなり、このまま東京に留まるか、Uターンするか悩んでいた最中でした。
「『ゲストハウスやカフェをやるのなら帰りたい』と母に告げ、戻ることになりました」。
新たな目標に向かい、富山で再スタートを切ったのです。
【交通アクセス】
■ 富山駅から
・富山地方鉄道「電鉄富山」より立山線「立山駅」下車すぐ。
■ 自家用車、タクシーを利用の場合
・富山きときと空港から約1時間
・北陸自動車道「立山IC」から約30分
海外での経験から、ゲストハウスを夢見る
高校生の時にアメリカに1年間留学し、海外に興味を持った後藤さん。
大学のカリキュラムでもタイで半年間暮らしました。「滞在中に友だちとタイ国内を旅し、ゲストハウスに泊まっていろんな国から来ているお客さんたちとおしゃべりするのが、とても楽しい経験でした」と振り返ります。
ゲストハウスをやりたいという気持ちが湧き上がったのは、この日々があったから。
でも当時は「老後の夢くらいに思っていました」。
その夢が、ここまで早くかなうことになったのを一番驚いているのは後藤さん本人です。
カフェ&ゲストハウスに生まれ変わる
「LOCOMOTION COFFEE AND BED」を造る時、祖母が持っていた建物に加えて、隣接していた旅館跡も購入しました。
すべてを壊して建て替えることもできましたが、かつてのお客さんたちの思い出を大切にしたいと考え、旅館跡の壁を抜き、はりや柱など使える部材を残して新たな空間を誕生させました。
1階はカフェと立山町観光協会のサテライト案内所があり、周辺の観光情報集めや、E-BIKEのレンタルができます。
ドミトリーの存在が、旅のプランを広げる
2階のゲストハウスは、ドミトリー(相部屋)と個室タイプの部屋があります。
ドミトリーの各ブースを広く設計したのは、山岳観光のお客さんは荷物が大きくなりやすいからという心づかいです。山へ行く前にゆっくりと休んでほしいと考えました。
ドミトリーの客室を用意したのは、タイに滞在していた時の楽しい思い出を形にしたいという気持ちだけでなく、「周りの旅館やホテルとは別のスタイルで営業したいという理由もありました」と後藤さん。
立山駅周辺で幅広い宿泊方法が選べれば、お客さんが自分のプランに合わせて思いのままに立山黒部アルペンルートを楽しめると考えたのです。
お客さんへ、山の情報のバトンを渡す
後藤さんが予想した通り、夜になるとゲストハウスの宿泊客がカフェに集まって、情報を交換している姿が頻繁に見られるようになりました。
初対面の外国人観光客と国内からの宿泊客がお酒を酌み交わしながら、言葉が通じない中でも盛り上がっているのを見ると「私がやりたかったゲストハウスの姿が実現していると感じます」と話します。
夜は、お客さんたちの輪に後藤さんが加わることもあり、気象や服装のアドバイスなど、いろんな人が寄せてくれる山の情報を、リレーのバトンを渡すように伝えています。
すべて未経験からのスタート
飲食業も宿泊業も未経験だったので、能登の民宿に住み込んだり、北海道や岡山の飲食店で厨房のオペレーションを学んだりして経験を重ねました。
ケーブルカーやバスの出発時間が決まっている人が多いため、カフェではなるべく短時間で提供できるメニューを揃えています。「『30分しかないが何か食べたい』と言って来てくださるお客さんもおられ、できる限り要望に応えている」と話します。
対応力が求められた1年を乗り切る
「やってみないと分からないことが多かったです」と後藤さんは言います。
「立山黒部アルペンルートの全線開通や雪の大谷ウォークの時期は、東南アジアや台湾からのお客さんが多く、日本人は1割未満でした。想像していた以上に、大勢のお客さんがカフェを利用してくれました。冬のレジャー客を狙っていましたが、スキー場からの距離などを理由に客足が伸びませんでした」
シフトの人数や食材の仕入れを増減したり、冬の営業を週末だけに変更したりと、開業から1年は、臨機応変に対応を続けてきました。
※2023年の営業情報:4/15~11/30無休 12/1~4/14の冬季は予約時やイベント時のみ営業
富山の日常の中にある、美しい景色を広めたい
「『LOCOMOTION COFFEE AND BED』のコンセプトは、『日常の中にある、非日常』。富山県は日常の中に立山連峰があるので、こんなに美しい場所があることをもっと広めたいと思っています」と前を向きます。
また「立山駅周辺には楽しい場所がいっぱいです」と言って、自分の好きな場所を紹介してくれました。
落差日本一の滝「称名滝(しょうみょうだき)」や、立山曼荼羅(たてやままんだら)の世界を五感で体感できる「まんだら遊苑」など、点在する魅力的なスポットをつなぐような存在になりたいと考えています。