昆布文化に新たな価値を創造する
昆布締め専門店「クラフタン」竹中志光さん-1

昆布文化に新たな価値を創造する
昆布締め専門店「クラフタン」竹中志光さん

富山の郷土料理として知られる「昆布締め」。
魚を保存する調理法として生まれたその歴史は江戸時代までさかのぼり、現代でも広く親しまれています。北前船の寄港地の一つだった高岡市は、まさに富山の昆布文化発祥の土地といえるでしょう。

そんな高岡の街で、昆布をこよなく愛し、その魅力を発信し続けているのが竹中志光さんです。
竹中さんは内装施工会社の代表でありながら、昆布締め専門店「クラフタン」と体験型複合宿泊施設「KOMBUHOUSE」を立ち上げました。

富山に根付く昆布文化に、新たなカルチャーを巻き起こそうと取り組む姿を見せてもらいました。

北前船がつないだ食文化を観光の切り口に


創業90年を超える銅器製造業の家系に生まれた竹中さん。
祖父や父が高岡のために尽力する姿を見て育ち、おのずと高岡の活性化に関わりはじめます。

昆布に着目したのは約10年前のこと。
高岡青年会議所の事業で食を切り口にした観光ルートを企画したときでした。
富山県は昆布の消費量や支出額が全国トップクラス。北前船が運んできた昆布は、高岡の歴史と食文化が感じられる食材だと目を付けました。

「ツアーの最後に自分で作った昆布締めを食べられるような、日本唯一の昆布締め専門店を作れば新しい街の魅力になると思った」と当時を振り返ります。

逆風にも負けず、昆布愛を貫く


畑違いの商売を始めることに周囲からの反対も多かったものの、「後悔したくない」と挑戦を決めた竹中さん。土蔵造りの町並みが残る山町筋(やまちょうすじ)に昆布締め専門店「クラフタン」をオープンしました。

しかし当初は順風満帆にはいきませんでした。キッチンを任せる予定だった料理人がオープン前になってクラフタンの厨房には立てないことになりました。新しい人を連れてくるか、白紙に戻すかの決断を迫られます。

「どうしても店をやりたい」と、自身で厨房に立つことを決めたものの、オープン早々にまれにみる大雪になるなど、半年ほど客が入らない事態に陥りました。

大変なスタートとなった「クラフタン」ですが、「暇な時間を使って昆布の研修に明け暮れることができたなど結果的に良かった。人を雇っていたら半年も資金が続かなかっただろう」と話します。
春になると、人気落語家がまち歩きをするテレビ番組で店が紹介されたことを機に、次第に名前が知られるようになりました。

昆布と素材の風味を楽しむ昆布締め料理


富山で昆布締めといえば定番の「ザス(県西部で使われるカジキマグロの別称で県東部ではサスとも呼ばれる)」を中心に、旬の白身魚やイカなど地魚3種と、肉や野菜、豆腐などの昆布締めが味わえる「昆布締めの盛り合わせ定食」がお店の看板メニューです。

食材ごとに下処理方法や漬け込む時間を変えています。また県外や海外から訪れる人は「締めた昆布のねばねばに抵抗がある人もいる」と、粘りが少ないながらも昆布のうまみが食材に乗るようにする工夫をしています。

しょうゆとともに提供される調味料は「煎り酒(いりざけ)」。梅干し、酒、かつお節、昆布などを煮詰めた調味料で、昆布締めならではの素材そのものの豊かな風味を味わうことができます。

店内を見回せば、皿や箸置き、カウンター、棚、ロゴにいたるまで昆布がモチーフとなっており、竹中さんの昆布愛が感じられます。

 

“昆布養生”をテーマにした体験型の宿泊施設


「クラフタン」の開業当初から宿泊施設の構想もあった竹中さん。

「高岡は観光名所こそ多いものの、市内に宿泊客が少ないのが課題。まずは泊まりたいと思ってもらえる宿を作る。そして観光拠点である山町筋と金屋町に店と宿ができることで、街を回遊させるきっかけにしたいと思った」と話します。

「昆布に興味がない人に関心を持ってもらうためには」と考え生まれたのが、江戸時代より鋳物師を呼び寄せたことで発展した高岡のもう1つの観光スポットである金屋町にオープンした体験型複合宿泊施設「KOMBUHOUSE」でした。

昆布を主役にしたフルコース&ドリンク


宿泊施設の1階にある「KOMBU BAR」では、昆布が主役となったフルコースの昆布料理が味わえます。
高岡の風土や歴史が表現された、昆布だしベースのオリジナルカクテルやノンアルコールカクテルは、ここでしか味わえない唯一無二のメニューです。

「今後は昆布の歴史や効能を学べる体験プログラムも用意していきたい」と話します。

 

昆布エステで心と身体を癒やす


北海道大学が研究開発したガゴメコンブを原料とした昆布由来の化粧品を使って施術を行うエステサロン。昆布の持つぬめりは保湿効果があり、「肌がモチモチになった」とお客様からも好評だそうです。

昆布のだしガラは足湯として再利用し、その後は氷見(ひみ)高校の「ウニ養殖プロジェクト」に提供します。余すことなく昆布を利用することで、循環型社会への貢献を目指しています。

 

昆布締めの価値向上へ


「たかおか落語ふぁんくらぶ」に所属し、落語が趣味という竹中さん。
年に数回は「くらふ亭こんぶ」として高座に上がり、昆布にちなんだ講談を行っています。

「それまでは裏方として落語会の運営を行っていたが、大阪府にある昆布屋さんから昆布を題材にした台本をもらい、やるしかないと思った」と、デビューのきっかけを教えてくれました。

飲食店、宿泊施設、エステ、落語など、さまざまな分野から昆布の新たな価値を発信している竹中さんですが、その根幹には「昆布締めのイメージを向上させたい」という思いがあります。
「富山では昆布締め=余った魚を保存する保存食というイメージが強い。地元に根付く食文化に価値があることを知ってもらえば、街の愛着や活性化につながるはず。今後は、昆布だしを使ったドリンク類を開発したい」と、思いを語ってくれました。

「昆布ドリンクで世界を取る」と話すその目には、昆布への果てなき愛と街の活性化に向けた思いにあふれています。

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