「生活者のように、まちを歩く観光があってもいい」
株式会社ワールドリー・デザイン 代表取締役 明石あおいさん-1

「生活者のように、まちを歩く観光があってもいい」
株式会社ワールドリー・デザイン 代表取締役 明石あおいさん

富山県西部に位置する射水市(いみずし)新港漁港では、シロエビやベニズワイガニといった富山を代表する海産物が水揚げされます。射水市内の港町の1つである内川(うちかわ)は「日本のベニス」とも言われ、放生津内川(ほうじょうづうちかわ)沿いの町並みにはノスタルジックな雰囲気が漂います。

この地でデザイン会社を営む明石あおいさんに内川の魅力をお聞きしました。

疎遠だった富山へ U ターン


大学進学を機に上京後はほとんど帰省もしなかったという富山市出身の明石さん。
東京でまちづくりに携わる仕事に就き、週の半分は全国を飛び回る中でいつか地域に根を下ろした活動をしてみたいと思うようになり、2010年、夫で空間デザイナーの博之(ひろゆき)さんと共にUターンしました。

Uターン後は期間限定で射水市の定住コンシェルジュとして働き、射水市観光ブランド課(当時)のお手伝いで、お客さんと内川のある新湊(しんみなと)地域の物件を見て回るうち、思いがけずお客さんより自分の方が内川に夢中になってしまったと話します。

心を射貫かれた内川の生活美


ゆるやかにカーブする内川(うちかわ)は、個性豊かな橋が架かり、両岸に漁船、そして木造家屋が並びます。“日本のベニス”とも称される内川エリアですが、その何とも言えない暮らしの美にふれた時、「こんな場所があるなんて」と心を射抜かれたそうです。明石さんが心を動かされたのは、新しくて流行のものや、どこかから無理やり持ってきたものではありません。

係留しておく漁船が傷つかないよう何本も無造作に結わえて張った岸壁のロープや、川岸にはためく何気ない洗濯物、魚の入っていた発泡スチロールの箱で育てられている花など、生活が垣間見えるまちの雰囲気に美しさを感じたといいます。

この地域の輝きに触れていたい、そして他の人にも気づいてほしいと思った明石さんは、自らの住まいも、職場も、内川沿いに構えることを決めました。
 

最初の一歩は「六角堂」


夫婦で内川周辺を散歩していた際、珍しい角(すみ)切りの外観をした建物に出合いました。
かつて畳職人が住んでいた空き家を気に入った夫婦ですが、夫の博之さんはここにカフェを作ることまで決意しました。リノベーションを行い、おしゃれに生まれ変わった「カフェuchikawa六角堂」は近くにある赤い屋根付きの東橋(あずまばし)とともに、瞬く間に話題のスポットとなりました。

「カフェuchikawa六角堂」は、これまで博之さんの会社で運営していましたが、今春からあおいさんが代表を務める(株)ワールドリー・デザインで引き継ぐことになりました。店頭に立つことは少ないものの、今カフェで出されているコーヒーをお手本に、毎日ネルドリップの練習をしているそうです。

“世間(せけん)”をデザインする


明石さんの会社名にある“Worldly(ワールドリー)”とは、“世間(せけん)”という意味です。
グローバルでも、ローカルでもなく、どちらの世界線にも通じるフラットな言葉と言えます。「世間体が気になる」、「世間様が許さない」のように、少し厄介なイメージもあるかもしれませんが、明石さんは、自分を取り巻く小さな営みにしっかり目を向けたいと考えています。

デザイン会社として、射水市の観光・定住課が発行する小冊子の制作をはじめ、まち並みをデザインしたレトロでかわいい文具を制作販売するほか、ご近所の店の看板やチラシ、お菓子の包み紙、WEBなどのグラフィックデザインもたくさん手がけています。デザインを通して、内川周辺でおもてなしを行う人たちの手助けをするとともに、会社の横の路地では、近くの宿泊施設のチェックアウトに合わせて1時間だけオープンする雑貨店「小さなSHOP」を運営しており、自身もおもてなしに取り組んでいます。

“界隈性”のあるまち


明石さんは、“界隈性(かいわいせい)”という言葉を大切にしています。
建築や不動産業界で用いられる専門用語で、地域の生業や生活・文化、景観などから感じられるまちの個性や雰囲気の中に、地元住民や来訪者も含めた多様な人々が往来し、つながり、コミュニティーが形成されている状態を指すそうです。

内川沿いには、お茶やお酒を飲みながらおしゃべりできるスポットが点在しています。
たとえば、元・新湊信用金庫の建物を活用した和風カフェ「内川茶房 月と兎」、ハワイ出身のマスターが営む「BRIDGE BAR(ブリッジバー)」、などなど。

明石さんと同じくこの土地に惹かれてやってきた人と、もともと住んでいた人が混ざり合う拠り所が増えることで、さらに人を呼び込む良い流れができているようです。

暮らすように旅をする


明石さんのおすすめは、暮らすようにまちに滞在する旅です。
新湊地域には空き家を利用したシェアハウスや、築100年以上の邸宅を改装したゲストハウス、プライベートサウナ付きの一棟貸し民泊施設など、観光はもちろん移住の足がかりにもなる宿がいくつもあります。

明石さんの事務所の裏手にある「水辺の民家ホテル」もその1つ。まるごと貸し切れる「ウミネコ」と「カモメ」の2棟は、いずれも内川が目の前。キッチン付きなので、地元食材を買ってきて調理するもよし、周辺の店で食事するもよし。まるで我が家にいるような自由さで、まちを知ることができます。

内川散歩のすすめ


内川周辺では、飲食店や着物をレンタルできるお店、アパレルショップなど新しいお店が増えたと言います。
そういったお店を巡りつつ、観光船に乗ったりノスタルジックな街並みで写真を撮ったり、という楽しみがあります。そこから地元の人と会話が生まれたりするのも一興です。見知らぬ人に声をかけられ、すっかり仲良くなってしまうことがあると明石さんは語ります。

ぶらぶら散歩してみることで、車だと気づかず通り過ぎてしまいそうな、おいしいパン屋さんに出合えたり、道の真ん中で寝転んでいる猫と目が合ったり、思わず頬がゆるんでしまう、ちょっとうれしい体験が待っています。観光と生活の間を行ったり来たりしながら、内川を楽しんでみませんか?

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