自慢のイチゴで人々を笑顔に
宇川農産 代表取締役 宇川純矢さん
富山県の西部、砺波平野に位置する小矢部市(おやべし)は稲作を中心とした農業が盛んです。
石川県との県境にある倶利伽羅峠(くりからとうげ)は、木曾 義仲が活躍した「倶利伽羅峠の戦い」の古戦場としても有名です。
そんな小矢部市内で、イチゴ狩り体験ができる農園を営む「宇川農産(うかわのうさん)」の宇川純矢さんにお話を伺いました。
地元にマッチした循環型農業の実施
高さ118mのクロスランドタワーが象徴の「クロスランドおやべ」からほど近い位置にある「宇川農産」。
イチゴ狩りのシーズンになると県内外から多くの人が集まる小矢部市の人気スポットです。
「現在も作っていますが、もともとは食用米や飼料用米、野菜を作っていました」と話すのは、代表の宇川純矢さんです。小矢部市では養鶏業が盛んで、宇川さんの農園では、自身の農園で育てた飼料用米を食べたニワトリの鶏糞を肥料にする「循環型農業」を実践しています。
鶏糞に含まれる微生物を生きた状態に保った特別なたい肥を利用して作られた作物は、環境負荷が少ない農業として評価されるだけでなく、米の食味コンテストで全国上位に名を連ねるなど、そのおいしさもピカイチです。
高設溶液栽培システムによるイチゴづくり
2020年からイチゴ栽培を開始した宇川さん。
「紅ほっぺ」と「やよいひめ」の2種類からスタートし、現在は「あきひめ」、「恋みのり」、「パールホワイト」と計5種類を作っています。
「宇川農産」のイチゴ栽培では、地面から1mほどの高さに培地を設置して苗を植える高設溶液栽培システムを導入しています。オンライン上での遠隔制御によって水や栄養液を与え、さらに温度、湿度、二酸化炭素量はデジタルで管理しています。「害虫被害を抑えるだけでなく、イチゴが一番甘くなる環境になるようハウス内を調整することで、おいしいイチゴができます」と笑顔で語ってくれました。
高級品種にも負けない自信
宇川さんが作るイチゴの特徴をお聞きすると、「当園で作っているイチゴのほとんどは直売店や地元の道の駅などで販売しています。流通に時間がかかる県外産のイチゴに比べて、鮮度が良くハリがあってみずみずしいです」と話します。
高級品種にも負けない自信があるという宇川さんのイチゴを求めて、取材時も多くのお客さんが訪れていました。
品種の違いを説明しながら、お客さんの好みのイチゴを提案する丁寧な接客も印象的です。「宇川農園」は、1つのレーンに複数種のイチゴを栽培していることも特徴です。通常の農園では1レーンにつき1つの品種を育てる農園が多いそうですが、気軽に食べ比べを楽しんでもらいたいという思いから現在の方法を取っています。
ハウス内の洗面所からは温水が出るなど、来場者が快適に楽しめる工夫が凝らされている同園は、口コミから徐々に評判を呼び、今では旅行情報サイト「じゃらん」の2022年度「いちご狩り人気施設グランプリ」甲信越・北陸エリア敢闘賞を取るほどの人気を誇っています。
スタートのきっかけと苦悩とは
イチゴ栽培を始めたきっかけについてお聞きすると、「かねてよりイチゴ栽培は考えていましたが、栽培の難しさや設備投資がネックでなかなか始められませんでした」と宇川さん。農産物の価格が上がらない現状もあり、新たな事業の柱を模索していました。
そんな時に宇川さんのお父さんが参加した勉強会で、イチゴの高設溶液栽培システムに出合いました。
「帰ってきた父が、『イチゴを始めるぞ』と。ほぼ即決でした」と当時を振り返ります。
その後は静岡県で高設溶液栽培システムを利用しているイチゴ農家に勉強に行き、栽培方法を学びました。
ハウスを導入してからも、静岡と異なる気温や日照時間などに対応するため、ハウス内のシステム調整など試行錯誤は続いたといいます。現在でも、より良いイチゴ作りを目指して研究を続けています。
イチゴを楽しめるカフェをオープン
2022年には敷地内にカフェ「おやべ しぇ・ここね」をオープンしました。
当初はイチゴ狩り参加者用の休憩所を設けようと思っていたそうですが「国の補助金制度もあり、いつかはチャレンジしてみたかったカフェを作る決意をしました」と話します。
スタッフさんにお話を伺ったところ、採れたてのイチゴを使った「いちごみるくスムージー」が人気だといいます。店内にはお土産にピッタリな「フリーズドライ苺」も販売されており、こちらも「宇川農産」で自社加工したものだと話してくれました。
「お客さんから『スーパーのイチゴに戻れなくなるくらいおいしかった』と言ってもらえたことが本当にうれしかった。お客さんに支持されてここまで来たが、2回目に来た時の感動が大きいままでいられるような施設を目指していきたい」と今後の抱負を語ってくれました。