世界遺産「五箇山」の合掌造り集落をめぐり、五箇山和紙の手仕事を体験する(富山県南砺市)
南砺市の五箇山地区にある相倉と菅沼集落は、世界文化遺産に登録されています。相倉合掌造り集落には、現在も約20棟の合掌造り家屋と4棟の茅葺家屋があり、そこで人々が実際に暮らしを営んでいます。食事を済ませたら「五箇山案内人」と一緒に相倉を散策。歩いているだけでは知り得なかったことをたくさん教えてもらえるので、五箇山への興味が一層深まるでしょう。また五箇山和紙の紙塑人形絵付け体験に参加し、自分の手で五箇山土産を完成させましょう。
相倉合掌造り集落にある「合掌茶屋まつや」に到着
五箇山は富山県南西部に位置する静かな山村で、相倉は五箇山を代表する世界遺産集落です。集落の入り口近くに位置する「お休み処・茶屋 まつや」へ向かいました。食事処にお土産品店を併設しているお店にはたくさんの観光客が憩い、五箇山の思い出を買い求めます。食事が出てくるのを待っている時間に、お土産品を見ていると「ささら」を見つけました。ささらは五箇山に伝わる民謡「こきりこ」を舞うときに欠かせない道具で、108枚のヒノキの板を紐で結って作られています。踊り手さんたちのように打ち鳴らしてみました。
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合掌造り集落
五箇山の中でも世界遺産文化遺産に登録されているのは、相倉と菅沼の2カ所のみです。「合掌造り」と呼ばれる茅葺き屋根の家屋が建っており、集落には民家だけでなく民宿や食事処などもあります。
五箇山合掌造り集落をもっと知る名物づくしの「山のご馳走ランチ」に満たされる
目の前に運ばれてきたのは、お店自慢の「山のご馳走ランチ」です。五箇山で採れた山菜の煮物、五箇山豆腐や地元野菜の天ぷらとともに、山盛りのざる蕎麦、南砺市のコシヒカリで握ったおにぎり、自家製の漬物まで付いています。ボリューム満点の食事が「お休み処・茶屋 まつや」ならではのおもてなしだそう。旬の幸を使って作るので、折々で料理の内容が少しずつ変わり何度も訪れたくなります。地元の幸たっぷりの食事を味わって山村の豊かさを実感し、お腹いっぱいに。
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五箇山豆腐
五箇山豆腐は、五箇山の澄んだ水と地元で収穫された大豆を原料にして作られています。縄で縛っても形が崩れないほどの堅さが特徴で、この堅さは大豆がしっかりと詰まっている証しです。
相倉合掌造り集落を、「五箇山案内人」のガイドで歩く
食事を終えたころ「五箇山案内人」の村上さんが迎えに来てくれました。ここからは村上さんのガイドを聞きながら相倉を巡ります。相倉はかつて城端と岐阜を結ぶ街道の要所で「お休み処・茶屋 まつや」のすぐそばにある道を、人々や荷物を運ぶ牛車が行き来していたそうです。相倉は世界遺産に選ばれてからも人々が生活を営なむ場所であり続け「ここに生きている人がいるからこそ、相倉は魅力があるのです」と村上さんは話します。合掌造り家屋が立ち並ぶ姿を見て、日本の原風景を目の前に懐かしさを感じていましたが、暮らしている人がいるからこそ素晴らしい景観が守られていることも忘れてはいけないと心に刻みました。
「合掌造り」と言っても、それぞれの家屋に特徴がある
合掌造り家屋は、急勾配の大屋根に特徴があります。これは気候との関連が深く、降り積もった雪が自然と落ちるための設計です。しかし合掌造りといっても、いくつかの種類があるそうで「相倉集落」と刻まれた記念石碑のそばに建っているのは「原始合掌造り」と呼ばれる現在の合掌造りの原型です。これが元になって発展・進化したことで、二階建ての茅葺民家が合掌造りのスタイルとして定着したそう。かつては1階の「オエ」部分が生活空間で、2Fの「アマ」が養蚕の場になっていました。「茅葺き屋根の吹き替えは、今も20年に1度ほどのペースでやっていますよ」と村上さんは話します。
「勇助」で合掌造りの暮らしぶりと内部構造を知る
案内人の村上さんが築150年の合掌造りの民宿「勇助」に連れてきてくれました。家屋の玄関先の暖簾は、主人の池端さんが五箇山和紙を使って手作りしたものだそうで、カラフルな彩りと手作りのやさしさが溶け合って、民芸に似た魅力を漂わせています。家屋に入ると池端さん夫妻が迎えてくれ、囲炉裏の側に案内してくれました。五箇山の合掌造り家屋はすべてに囲炉裏があり、朝起きるとすぐに火を灯すそうです。囲炉裏からの煙によって柱や梁が燻されることにより、構造が強くなり虫がつく心配もないのだそう。
自在鉤で吊り下げられた鉄釜に入った番茶を汲み、池端さんがもてなしてくれます。囲炉裏まわりの座り位置は昔から決まっていて、客人は主人の正面にあたる上座に通されます。池端さんはカメラマンでもあり、五箇山の折々の光景を写した写真集が書棚に何冊も並んでいました。暮らしているからこそ出会える、息をのむような景色が収まっています。
合掌造り家屋の2階で、養蚕や塩硝の歴史を見学
かつて五箇山は、加賀藩の庇護のもと養蚕と塩硝づくりが行われていました。「勇助」の2階は養蚕や塩硝づくり、五箇山民具を紹介する展示館になっています。急勾配の階段を登って2階に立つと、傾斜する屋根の形に沿って置かれた棚に、蚕や桑の葉、繭などのレプリカが置いてありました。蚕も池端さんの手作りだそうで「子どもでも出来ることをやっているだけ」と話します。しかし昔の風景を再現した展示が、想像力が掻き立ててくれます。なかでも感動したのが、昭和30年代の五箇山の行事や、日常の風景を写したモノクロ写真です。魅力的な被写体に、この場所で暮らした人の生きる力を感じます。一緒に写真を見ていた村上さんが「こういう時代もあったんですよね」と、しみじみと話してくれました。顔はめパネルで記念写真を撮ったり2階からの景色を楽しんだりと「勇助」で充実の時間を過ごしました。
五箇山和紙で作られた紙塑人形に、絵付けする
次に訪れた「五箇山和紙漉き体験館」も、合掌造りの家屋です。室内で作業をしていた「農事組合法人 五箇山和紙」の前崎さんが迎えてくれました。ここでは紙塑人形という和紙でできた人形に、絵付け体験ができます。「ブチ猫」をチョイスし絵付け作業がスタートし、見本の猫を参考にして色を塗っていきます。紙塑人形は、五箇山和紙特有の人形で、和紙の切れ端と糊を杵でついて型にはめて作られています。表面は新品の和紙ですが中は和紙を再利用したものになっており切れ端を捨てるのはもったいないからと、50年ほど前に作り始めたようです。「今の考えでいうと、サスティナブルな取り組みですよね」。うれしそうに話す前崎さんの表情から、紙塑人形を誇りに思っているのが伝わってきます。
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五箇山和紙と紙塑人形
五箇山の伝統産業で、「農事組合法人 五箇山和紙」では五箇山で栽培した楮、南砺市内で収穫したトロロアオイを原料にして和紙を漉いています。紙塑人形は五箇山土産の定番品で、相倉の土産店でも販売しています。
絵付けも終盤、目の表情が仕上がりの要になる
前崎さんから「片膝を立てると腕が安定するから作業しやすいですよ」と教えてもらい、絵付けを進めると本当にその通りでした。一番ドキドキだったのは、目を塗る瞬間。大きさや形によって表情が違って見えるので、かわいく仕上がるように丁寧に時間をかけて筆で色を置きます。さらにブチ模様は黒色の和紙を貼り付けます。和紙はハサミで切るのではなく、水を含ませた筆で円を描くと、簡単に切り離せます。
接着剤でブチ模様を貼って出来上がり!
五箇山和紙の職人の手仕事に触れる
絵付けが終わったら、前崎さんがいつもの仕事風景を見せてくれました。この日は動物の形をした人形に柄を入れる作業の日だったようで、前崎さんの隣に何百個と絵付け前の紙塑人形が並んでいます。その姿を目にした途端、五箇山和紙の仕事が途方もなく根気のいるものだと伝わってきました。原材料の栽培にはじまり、和紙漉きや人形作り、絵付けまで、機械に任せられることはないそうです。さっき教えてくれたように膝を立てて筆を持っておられ、それが職人の経験から身についたことなのだと思いうれしくなりました。そして体験の最後に、家屋の中にある店舗で「合掌造り」と「雷鳥」の紙塑人形をお土産用に購入。
展望台から望む相倉集落の景色は格別
相倉集落から離れる前に、集落の全景を見渡せる撮影スポットへ。第1駐車場から段々畑沿いの山道を歩くこと5分。先ほど訪れた合掌造りの家屋や歩いていた細い道が一望できます。記念写真を撮影し、旅のアルバムに保存。山村の集落なので太陽が沈むのが早く、夕方は少し急ぎ足がよさそうです。
世界遺産「五箇山」の相倉集落の旅はいかがでしたか。ここで暮らす人々の地域に残る伝統を守りたいという篤い心と、山村の豊かな自然、懐かしい景色に触れに、ぜひ訪れてくださいね。
お申込み方法
五箇山和紙の手仕事体験は、下記よりご予約いただけます。
・実施期間:4月下旬~11月下旬
・問合せ先:0763-62-1201